冗談・時効では済まされない、ゲームメーカーによる「うそ」情報の提供


みなさんこんにちは。鴫原盛之です。

先日、ゲームメディアで筆を執る者のひとりとして、そしてひとりのゲーム好きとしても、非常に気になる記事を見つけましたので、この場を借りてみなさんにご紹介したいと思います。

5月20日、ニュースサイトの「ねとらぼ」にて、「“FFT黒本”『小数点以下の確率で盗める』21年目にして驚愕の事実発覚か 『スクウェアが資料にうそを入れた』」という記事が掲載されました。

“FFT黒本”「小数点以下の確率で盗める」21年目にして驚愕の事実発覚か 「スクウェアが資料にうそを入れた」

本記事によると、現スクウェア・エニックス社員の前廣和豊氏が、5月19日のニコニコ生放送で「資料にうそをいれた」と発言したとのこと。「うそ」というのは、1997年にスクウェア(当時)が発売したプレイステーション用ゲームソフト、「ファイナルファンタジータクティクス」の攻略本「ファイナルファンタジータクティクス大全」(JK VOICE著、アスキー刊。上記の「FFT黒本」は本書を指す)の制作にあたり、メーカー側が提供したゲームの資料にわざと「うそ」のデータを入れたとコメントしたらしいことを指します。

「らしい」というのは、前廣氏ら生放送の出演者が本作を実況プレイしつつ、「とある敵キャラクターが持つアイテムが、盗める確率が0パーセントと画面上では表示されるが、実は盗むことができる。」(※大意)と、上記の攻略本には掲載されているのに、実は絶対に盗めない設定になっていることを話題にした際に、以下のように前廣氏がコメントしたため、この「うそ」情報は、実はメーカーが発信源だったのではという疑いが生じたことによります。

「当時攻略本て、開発側が(攻略本発行元のために)資料を出すじゃない。それをまるっと検証もせずに(掲載を)やってたところがいっぱいあったわけ。どことは言わないけど。それにイラッとしたゲームデザイナーの某伊藤さんがですね、うそを入れた」(※前掲の記事より引用)

みなさんは、はたしてどんなご感想をお持ちになったでしょうか? 筆者(鴫原)は、もしこれが事実とするならば、まったくもってとんでもない、けっして冗談で済まされる話ではないと思います。

確かに、自分たちで攻略法を考えたり検証プレイをろくに行わず、メーカーに請求した資料に頼りっきりで「攻略本」を作ろうとするライター、編集者の姿勢は褒められたものではありません。筆者は以前、某大手メーカーのプログラマーから、「仕事がもの凄く忙しい最中に、自分たちで調べればすぐにわかるのに『攻略本に載せるからデータをくれ。』と、しつこく言われてキレそうになった。」という話を聞いたことがあります。

つまり、資料をただ丸写ししたのでは記事のクオリティが高まらないだけでなく、メーカー側から見ればメディアからの資料請求依頼が増え過ぎると、ゲーム開発者は本業に専念できる時間が削られ、迷惑が掛かることにもなるわけですね。もしかしたら、「うそ」の情報を入れた件の開発者は、当時はメディア対応に追われて多忙のあまり冷静な判断ができない状態だったのかもしれません。

しかし、だからといって誤った情報をイタズラで流した結果、メディア側の信用、ブランドを損ねることにつながるという意識は持たなかったのでしょうか? 発売後、メディア側に問い合わせの電話が相次いで迷惑を掛けたり、「うそ」がすぐさま発覚して営業スタッフ間で契約の見直しや値下げ交渉が行われたとしたら、いったいどう責任を取るつもりだったのでしょう?

ひとつのゲームだけを題材にして一冊の本を作る以上、全ページの掲載内容は必ず著作権を持つメーカー側がチェックを行っているハズです。事実、前述の攻略本の奥付には「監修 岡宮道生 株式会社スクウェア」とはっきり書かれています。よって、メディア側もメーカーチェックが終了した時点で、その内容に対してお墨付きをいただいたと思うのは自然なことであり、メーカーに非は一切ないとは言い切れないでしょう。

また、現役の社員が「うそ」を入れたと証言したことによって、当該社員がこれまで開発に携わった他のゲームの攻略本、および雑誌に掲載された記事においても、もしかしたら「うそ」の情報が含まれているかもしれないという、新たな疑いの目を持たれてもしかたがないでしょう。つまり、上記の攻略本を発行したアスキー(※現在のGzブレイン)以外の出版社や、編集プロダクションの信用を下げる恐れもあるわけです。

ライターの立場から申し上げますと、このようなことをされると安心して仕事ができなくなってしまいます。なぜなら、もしメーカー資料に「うそ」が記載されていたら、それを元にゲームの攻略法を編み出すべくやり込んだライターは、どんなに一生懸命練習してもパターンがまったく作れず、ムダ働きをさせられることになるからです。

あるいは、本が発売された後になって、「お前が間違って書いた記事のせいで、クレームや問い合わせの電話が鳴りっ放しで困っている。だからペナルティとして原稿料を下げるぞ。」などと出版社や編集プロダクションに怒られ、トラブルの原因がわからないまま自分たちの信用が下がる事態にでもなったら非常に困ります。

そして何より、お金を払って本を買ったユーザーに対し、わざと「うそ」の情報を流して騙すなどというのは失礼極まりない行為です。今から20年以上も前に発売されたゲームの話題ではありますが、現在でもPSストアでのダウンロード販売という形で流通している以上、時効として看過できる問題ではないでしょう。

実は筆者、本作を発売日に購入し、その数カ月後には「FFT黒本」も買って一時期かなりやり込みました。さらに、前述したアイテムが盗めると書いてあるのに盗めない場面で何度も盗みにトライし、結局できずにあきらめた経験も持つ、言わば被害者のひとりでもあります。ですが、個人的にはとても気に入ったゲームであり、今でもソフト、攻略本とも大切に保管していただけに、前廣氏のコメントには(たとえ、「うそ」を仕込んだのが別のゲーム攻略本であったとしても)本当に失望しました。

ほかにも、メディアに向けてわざと「うそ」を流したことがあるメーカー開発、あるいは広報担当者がまさかいるとは思いませんが、誰ひとりとして得をしない、このような行為は金輪際やめていただきたいですね。

「ファイナルファンタジータクティクス大全」

筆者所蔵の「ファイナルファンタジータクティクス大全」。もしメーカーが「うそ」の情報を流したのが事実ならば、帯に書かれた「FFT最高のバイブル」というキャッチコピーはいったい何だったのでしょうか……
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