東京ゲームショウは世界中のゲームビジネス関係者が一堂に集まるビジネスハブの一つであり、多くの駐日大使館でネットワーキングイベントや記者発表が行われます。2022年9月13日にフランス大使館で開催された「フレンチ・クリエイティブ・ラボ」紹介イベントもその一つで、東京ゲームショウにあわせて来日した独立系ゲーム会社やサービスプロバイダー9社による、ミニプレゼンテーションが行われました。そのうちの一社が1997年に創業し、パリに本社をおくゲーム開発会社、Quantic Dreamです。
Quantic Dreamは『Detroit: BecomeHuman』をはじめとしたアドベンチャーゲームの開発で日本でも知名度の高い企業です。ゲーム開発だけでなく、2019年にはアドベンチャーゲーム『Sea of Solitude』のディレクターズカット版をリリースするなど、パブリッシング事業も開始しています。東京ゲームショウに先立ち、8月にドイツで開催されたgamescom 2022では、最新作『Under The Waves』の販売も発表しました。東京ゲームショウの直前、中国ゲーム大手のNetEase傘下への移籍が発表されたことでも注目を集めています。
このように、さまざまな意味で注目を集めるQuantic Dreamで共同経営者をつとめるGuillaume de Fondaumière氏に、フランス駐日大使館の協力でメールインタビューを行いました。
『Under The Waves』のテーマは海洋保全
ーーGamescomで発表された最新作『Under The Waves』の概要と企画意図をお聞かせください。本作は、どのようなプレイヤーにどのような感情や体験を提供することを目的とされていますか? 『Under The Waves』は『Detroit: BecomeHuman』のファンも楽しめる内容なのでしょうか。それとも新たなユーザーをターゲットにしたものでしょうか?
Fondaumière:独立系デベロッパーのParallel Studioと提携し、彼らの次回作『Under the Waves』をパブリッシングすることになりました。2023年にPlayStation 5、Xbox Series X/S、PlayStation 4、Xbox One、PCで発売される予定です。このゲームでは、プレイヤーは北海の深海を探検し、テクノフューチャーな1970年代を舞台に、そのほとんどが海中で繰り広げられる感動的で詩的な体験をしていくことになります。プレイヤーはプロのダイバーである”スタン”を演じ、深海の孤独に直面し、波のはるか下で一連の奇妙な出来事を経験することになります。このゲームは、サーフライダー・ファウンデーション・ヨーロッパとパートナーシップを結び、海洋保護活動を支援するエコロジーなメッセージを含んでいます。
『Detroit: Become Human』のように、『Under The Waves』は現実的なテーマに触れています。開発チームは『Under The Waves』で、悲しみがいかに私たちに深い影響を与えるか、また、人間と自然の複雑な関係について語ることを選びました。この作品は、インタラクティブな方法で体験できる有意義なストーリーを好むユーザーに向けたもので、プレイヤーはストーリーの展開に変化を与える機会を与えられます。
ーー『Detroit: Becomes Human』では、格差社会や移民問題がモチーフになっていました。『Under The Waves』もまた、海洋保全の問題がモチーフになっています。こうした社会問題をゲームで扱った意図は何でしょうか。
Fondaumière:『Under The Waves』は海へのラブレターであり、海洋保全の重要性に光を当てています。この複雑な生態系がいかに壊れやすく、重要であるかということに注意を向けるために、生き生きとした海の生物と、ゲームプレイを通じて共有される微妙なメッセージを紹介しているのです。私たちは、ゲームを通じて、プレイヤーに社会的なトピックについて考えてもらうとともに、ゲームを楽しみながら、そのストーリーに感情移入してもらうことができると考えています。サーフライダー・ファウンデーション・ヨーロッパとの提携により、湖、川、海、波、海岸線を守るために重要な活動を行う団体に注目してもらうことができ、ゲームをプレイするだけでなく、プレイヤー自身がその気になれば取り組むことができるようになりました。
ゲームと映画の共通点と相違点
ーースター・ウォーズファンとして、『STAR WARS ECLIPSE』の開発状況が気になるところです。開発段階は全体の何割程度なのでしょうか。 また、御社がNetEaseに買収されたことで、『STAR WARS ECLIPSE』の開発に何らかの影響を与えた要素はありますか?
Fondaumière:『STAR WARS ECLIPSE』は、大共和国時代を舞台にしたアクションアドベンチャーゲームで、これまでで最も野心的なタイトルです。今回、弊社がNetEaseに完全移籍したことで、何か影響があったとしたら、パリとモントリオールのスタジオで開発中の本作やその他のゲームを実現するための資金的な余裕が生まれたことです。
ーー御社はモーションキャプチャー技術を通じて、映画業界との関係も深めてこられました。映画とゲームのタイアップは、PS3世代では活発でしたが、PS4で一段落し、近年はゲームIPの映画化が増えている印象があります。今後、ゲームと映画の関係はどうなっていくと思われますか?
Fondaumière:技術面では、アニメ、長編映画、ゲーム作品は、数十年前から同様のものを使用しており、これらの業界はいずれも複雑なアニメーション映像、音響、特殊効果を生み出すようになっています。モーションキャプチャーは医療分野から生まれたもので、例えばリアルなアニメーションのキャラクターを作る上で重要な進歩をもたらしましたが、どちらの分野でも使われている、他の多くの技術や手法の一つに過ぎません。近年では、ハイエンドな映画やテレビ番組で、創作活動を円滑にするために、ゲームのリアルタイムゲームの活用が目立つようになりました。また、テレビシリーズにおいても、Netflixが制作した『ブラック・ミラー:バンダースナッチ』のように、インタラクティブ性を追求した作品が登場しています。これらのメディアの根底にあるのは、やはり「コンセプトの違い」ではないでしょうか。リニアな作品ではカメラ/ディレクターの目を通して物語を見る視点があり、ビデオゲームではプレイヤーがアクションや物語を演出する機会があります。
メタバースとゲーム業界の優位性
Fondaumière:コンテンツ面では、映画は歴史的に最も完成度が高く複雑なエンターテインメントであり、これがゲームのクリエイターやデザイナーに影響を与えるのは理にかなったことでした。しかし、ビデオゲームは20年以上前から、より複雑なストーリー、世界観、キャラクターを特徴としています。ニッチからメインストリームへと成長し、世界中で何億人もの人々が楽しんでいます。そのため、ゲームのストーリーやキャラクターを劇場やテレビで表現し、ゲームのファンだけでなく、ゲームをしない人に対しても、その世界観やストーリーを楽しめるようにすることは、理にかなっています。
映画、テレビシリーズ、ゲームは同じ観客を対象とする重要なカテゴリーであるため、今後ますます(人気IPの)映画化が進むと思われます。リニアとインタラクティブの両側面において、今や非常に教養のある観客の心に響くような成功を収めるためには、これらの翻案が、おそらく過去よりも意味深く、情熱を持って作られる必要があるでしょう。
ーーゲーム業界は成長を続けており、モバイル、コンソール、PCなどゲームの内容も多様化し、多くの人がゲームを楽しんでいます。メタバースやデジタルツインといった言葉もメディアで取り上げられるようになりました。今後、ゲームの力は現実世界にどのような影響を与えるとお考えでしょうか。
Fondaumière:ゲームはもう何十年も前から「永続的な世界」や「コミュニティ体験」を特徴としてきました。数年前に「メタバース」という言葉が主流になったとき、特にスティーブン・スピルバーグ監督の映画『レディ・プレイヤー・ワン』のおかげで、ゲーム会社は、自社のゲームはすでにメタバースであり、プレイヤー同士が遊び、チャットし、交流し、取引することができるとすぐに回答することができました。私は、これは本当に正しいことだと思いますし、このような次世代の体験を生み出す競争において、我々の業界は決定的な優位性を持っていると思います。
インタビュー中でも触れられていますが、Quantic Dreamが手がけるタイトルは、リリースを重ねるたびに社会的なテーマ性が深まっている点が特徴の一つにあげられます。最新作『Under the Waves』も海洋保全がテーマに掲げられており、これは『This War of Mine』『マイ・チャイルド・レーベンスボルン』などに代表される、シリアスゲームの新しい潮流にも位置づけられるでしょう。SDGsが社会的な注目を集める中、ゲーム業界ならではの普及・啓発活動の一環としても、また海洋アクションアドベンチャーの注目作としても、発売を期待したいところです。