ストラテジーゲーム専門のインディゲームパブリッシャー「Hooded Horse」でCEOをつとめるTim Benderがポッドキャスト『The Business of Video Games』にゲスト出演しました。インタビュアーは元Paradox Interactiveの最高経営責任者で、現在はHooded Horseで会長をつとめるShams Jorjaniです。今回、インタビュー文字起こしの日本語訳の提供を受けましたので、全文をお届けします。
主なトピック
- Hooded Horseとは
- CEO Tim Bender の背景
- なぜストラテジー特化のインディーパブリッシャーなのか
- パブリッシング経験ゼロなのに、どうして大型タイトルと契約を結べたのか
- Hooded Horseという名前の由来
- 他のパブリッシャーとの違い
- Hooded Horseのビジネスモデル、契約条件について
- リクープはする? しない?
- パブリッシャーとして必要なこと
- (日本メディア限定質問)日本語ローカライズに積極的なのはなぜ?
Spotify: https://open.spotify.com/episode/0lDz0G7dBVtY6epgww2TlL
現在急成長中のゲームパブリッシャー「Hooded Horse」とは?
Shams:Hooded Horseは、ストラテジーやタクティカルゲームに特化したゲームパブリッシャーで、『Against the Storm』、『Old World』、『Terra Invicta』などをリリースしています。
昨年5月に最初のパブリッシングタイトル『Old World』がリリースされてから、現在2023年10月までの間に、彼らのパブリッシングタイトルは8本にまで数を増やし……原稿にはそのように書いていたのですが、この原稿を書き上げてからこの収録に至るまでの間に新たなゲームとパブリッシング契約を結んだようです。つまり現在は「9本」ですね。
まさに「急成長中」という言葉の裏付けにもなるほどのスピード感です。
また、今後も大きなリリースを控えています。現在Steamのウィッシュリスト上位(2023年10月現在、第3位)にランクインしているタイトル『Manor Lords』もその内の1本です。
最後に私自身も、昨年5月にHooded Horseの会長(Chairman of the Board)に就任し、週に半日ほど彼らのCEOであるTim Benderと話し、戦略的なアドバイスをしたり、私が長年勤務したParadox社で起こしたような大きな失敗を起こさないように助言をしています。
今回は、Hooded HorseのCEO、Tim Benderをゲストとして迎え、「他社がSteamで苦戦しているなか、いかにしてHooded Horseは成功できたのか」ということなどを聞いていきたいと思います!
Against the Storm
──まずは、あなた(Tim Bender)のこれまでの背景について教えていただけますか?
Tim:私は、しばらくのあいだ弁護士をやっていました。そのあとは、マッキンゼーで少しの間ビジネスコンサルタントとして働いていました。また、中国史や東アジア地域の政治学なんども勉強して、修士号も取得しました。
マッキンゼーに在籍していたころ、新規事業に投資をしたいという友人がいたんです。その頃、私は『Mount & Blade: Warband』というゲームのDLC『Viking Conquest』に対応するMODの製作を趣味として楽しんでいたんですが、彼から「そんなに好きならゲーム業界で起業したらどうか」と声をかけられたんです。そこで、自分も少し調べてみたら、ストラテジーやタクティカルゲームを扱うインディーゲーム・パブリッシャーなら可能性があるかもしれないと思ったんです。
──ということは、
Tim:そうですね。パブリッシャーになるとは思ってもみませんでした。ゲーム業界に興味があって、いろいろと調査をしてみた結果、インディーゲーム・パブリッシャーに可能性を見いだせたという感じです。
そこで最初に出会ったのが『Terra Invicta』でした。『XCOM』用に作られたMOD『Long War』の開発者たちによって開発されていた作品です。自分自身も『Long War』MODを楽しくプレイしていたんですが、彼らがKickstarterを開始するという発表を知り、「もし彼らと話ができれば、パブリッシング契約の話もできるのでは?」と考えたのです。それがHooded Horseの始まりですかね。
──では、あなたはどのようにしてインディーゲーム・パブリッシャーに可能性を見いだせたんですか? 昨年は30社ほどの新たなパブリッシャーが誕生しましたが、Hooded Horseはそれよりも少し早かったですよね。いったいどのような分析をして、この業界に何が足りないと考えたのでしょうか?
Tim:今この場でしっかり話せるほど答えはまとまっていませんが、1つは「特定ジャンルに特化したパブリッシャー」です。私たちもストラテジーとタクティカルと謳っていますし、純粋なストラテジー特化型とは言えませんが、それでもこのジャンル層に特化したパブリッシャーなら上手くやっていけるのではないかと考えたんです。この手のジャンルを好むプレイヤーたちも特定的ですしね。
このジャンルが大きなお金になるとは思っていません。「お金儲けに最適なのは?」と聞かれれば、オープンワールドのサバイバル・クラフト系だと言うでしょう(笑)。
ストラテジーやタクティカルゲームは個人的にも大好きなジャンルですし、よく理解もしているつもりです。そして、このジャンルを同じように理解している人たちがいれば、会社にすることも可能だと考えたんです。
それに、このジャンルであれば、競争相手も少ないと考えました。もちろん、Paradox Arcなどの先駆者もいますが。会社の立ち上げを考えていた2019年当時──もちろんその時点でもそういったパブリッシャーは数社いましたが──まだもう1社くらいなら新規参入できる余裕があるように思えました。自分の創りたい会社が参入できる余裕があると。
自分の創りたい会社というのは、独立性の高いスタジオを支援しながら彼らと連携し、彼らが独立したままでいられるようにサポートしていく会社でした。
OLD WORLD
──面白いですね。少し話を戻させていただきますが、過去に1度もゲームパブリッシングを手掛けたことのないHooded Horseは、いかにして『Terra Invicta』を味方につけ、Mohawk Gamesなどの素晴らしい開発者たちと契約を結ぶことができたのでしょうか? 会社を立ち上げてからのお話をもう少し聞かせてください。
Tim:『Terra Invicta』などに関しては、開発者たちとの最初のミーティングが上手くいったところが大きいと思っています。私たちの求めるものや理想の関係性などについての話をしたところ、彼らも同じような認識を持っていたのです。
それに『Terra Invicta』のKickstarterが上手くいったということも大きな要因ですね。こうしたゲームが20万ドル以上もの資金を調達したのですから──もちろん、アダルト向けのゲームだとか、かわいいネコのゲームならもっと大きな資金調達も可能なのでしょうけど(笑)。このようなニッチなストラテジーゲームとしては、とても大きな成功です。
それから、Steamストアページも立ち上げると、ウィッシュリスト登録も順調に増えていきました。
それでも、彼らが最初から私たちにここまでの信頼を置いてくれたということについては、本当に感謝しています。
──素晴らしいですね。ここからは、もう少しHooded Horseの核心的な部分について尋ねていきましょう。まずは、
Tim:それには2種類の理由があります。1つは、.comが空いてたからとか、みんな動物が好きだし覚えやすいからとか。もちろん、これもすべて事実ですよ(笑)。
もう1つは、北欧神話です。Hooded Horseとは、北欧神話に登場する「ユグドラシル」のことです。”Yggdrasill”とは、北欧神話の主神オーディンを表す”Ygg”と馬を表す”Drasill”という言葉から成立していると言われています。ユグドラシルとは、つまり「オーディンの馬」という意味です。また、オーディンは”Hooded One(フードを被りし者)”とも言われます。そこから”Hooded Horse”という名前が出来上がりました。
ロゴを世界樹にして、みんなに「馬なのに?」と思わせて混乱させることもできましたが、それはやめておきました(笑)。
──ありがとうございます。それでは、Hooded Horseは他のパブリッシャーと比較して何が違うんですか? また、なぜストラテジーに特化しようと思ったのですか?
Tim:まず最初に、私たちがParadoxやCreative Assembly、Firaxis Gamesなどの競合他社に当たるとは思っていません。彼らが、現在のストラテジーゲームの土台を築き上げたといっても過言ではないと思っています。特にParadoxなんかがそうですよね。人々にこうしたニッチなストラテジーゲームの楽しみ方を教えてきてくれたわけですから。
現にこうして今ストラテジーゲームを遊んでいるプレイヤーの9割は『Total War』や『Civilization』、『XCOM』もしくはParadoxゲームなどから来ているのではないでしょうか。彼らは競合他社というよりもむしろ恩人なわけですから、感謝しかありません。
いまでこそ『Manor Lords』といった、ウィッシュリスト登録数も上位に食い込み、幅広いプレイヤーに遊ばれるであろうタイトルも存在しますが、「よし、『Total War』の競合タイトルを生み出すぞ」と始まったわけではありません。
私たちの根幹となっているものは、より小さな開発スタジオが手掛けるゲームです。小さくないとダメというわけではありませんが、大きな開発スタジオである必要はありません。そういった開発スタジオが作る作品はとてもニッチですが、それが響くニッチなプレイヤー層がいるわけです。そうしたプレイヤーたちにきちんとゲームを届けることで、ゲームが成功を収めることができ、開発者もゲーム開発を続けていくことができると考えています。
ストラテジーゲームは利益性の高いジャンルとは言えません。いくらクオリティが高くても、誰にも遊ばれていないようなストラテジーゲームは無数に存在します。ストラテジーゲームのプレイヤーたちはとても強いこだわりを持っていますし、1つの作品に膨大な時間をつぎ込みます──ちょっとだけ遊ぶようなゲームを求めているわけではないのです。そのため、埋もれてしまうタイトルが無数に生まれてしまうのです。
そのうえ、ある程度のクオリティを求めるのなら、それなりの開発期間が必要になってくるジャンルだとも思っています。……ストラテジーゲームが業界最悪のジャンルだとは言いませんよ! 私自身、その中でとても楽しんで働いていますから(笑)。
もちろん、良いところもあります。例えば、一度プレイヤーに響けば長く遊んでもらえますし、そうなればDLCも出しやすくなります。また、価格が少し高くてもゲームを購入することができるプレイヤー層がいるゲームジャンルだとも考えています。その他にも数えきれないほどの強みがあります。
それでも、このジャンルに飛び込むことが、みんなにとって最適かと聞かれれば、そうとは答えられません。私たちにとっては、大好きなジャンルであり、よく理解している最適な場所だったというだけです。
TERRA INVICTA
──Hooded Horseのビジネスモデルや契約条件について教えていただけま
Tim:私たちが契約するゲームは、主に2種類に分けられます。
1つ目は、資金提供を必要としているソロもしくは二人組体制で開発されている小さなゲームです。こうしたゲームに対しては、基本的に「開発費用の投資」と「マーケティング」を行います。
2つ目は、資金的な面では安定してる大きな開発チームによって開発されているゲームです。この場合は、過去に成功を収めている開発チームが多いですね。例えば『Nova Roma』を手掛けるLion Shieldは、『Kingdoms and Castles』で成功を収めた開発スタジオです。他に『Battle Brothers』を手掛けた開発スタジオによる新作『MENACE』も同様のケースです。こうした大きな開発スタジオは、開発費用などに関しては自分たちで賄えていることが多いので、マーケティング契約を結ぶことが多いです。もちろん、ローカリゼーションやQA(品質保証)なども行います。パブリッシングのサポートをするかたちです。開発費用の投資はしません。
私たちのポートフォリオは、だいたい上記の2種類に二分されています。
最近は、より大きな開発チームを備えたスタジオと契約を結ぶことが増えてきましたが、つい先日も『Super Fantasy Games』というソロ開発スタジオと契約を結んだりしています。数か月で10万件以上ものウィッシュリスト登録を獲得した期待作です。
ここで何が伝えたいのかというと、私たちは「開発費用の投資」をほとんどしていないということです。大きな開発資金を必要とする大きなスタジオは既に自分たちで賄えていることが多く、契約はマーケティングに限定されることがほとんどです。逆に開発費用の投資を必要とする小さな開発スタジオは、そもそも必要とする開発資金も少ないのです。そのため、全体的な資金提供というのはあまり大きくありません。
この背景としては、私たちにはベンチャーキャピタルや投資組織がいないからです。100%、普通株による個人的な投資のみです。大きな資本金をベースに立ち上げたわけではありませんが、急成長を遂げることができたおかげで、開発費用の投資も続けながら運営できています。
契約条件に関しては、ある程度のスタンダードが出来上がっています。
例えば、マーケティングのみの契約であれば、収益の35%をパブリッシャー側の取り分として、残りの65%を開発側の取り分とするのが弊社のスタンダードとなっています。
ただし、パブリッシャー側の取り分が35%を下回るような特殊なケースも存在します。例を挙げると私たちと契約を結ぶ前に、ウィッシュリスト登録数がすでに55万件を超えていた作品ですね。
開発費用の投資を行う場合は、パブリッシャー側の取り分が35%よりも少し大きくなります。それでもリーズナブルにしています。
──IP(ゲームタイトルやキャラクターなどの著作権)
Tim:IPを取ることはありません。正直、IPを獲得したところで、私たちに良い使い道があるのかどうかも分かりません。IPを取ることはないですね。
──リクープ(発売直後の費用回収)についてはどうですか?
*リクープとは、パブリッシャーが、投資費用を回収するために、ゲーム発売直後の売上をすべて獲得すること
Tim:弊社のスタンダードは、「パブリッシャーが35%、開発者が65%」です。リクープのようなものは一切ありません。初月から、ゲーム発売後数年間の月間収益配分に至るまで、この比率が変わることはありません。フラットレートです。
業界のスタンダードなのかどうかは分かりませんが、マーケティング契約の場合、パブリッシャー側の取り分が30%で、さらにリクープまで行うという話を聞きました。私たちは、これをする代わりに、取り分を35%にしてリクープを行わないようにしています。
私たちは、発売直後の売上を確保するリクープを行う形から、長期的に少し高めの収益配分をいただくという形に変えていくことが大事だと考えています。こちらのほうが、より開発者のことを考えているように思えます。
リクープは結局のところ、リスクをカバーするためのものでしかありません。ゲームが上手くいかなかったときの責任を、パブリッシャーから開発者へと転嫁させるものです。しかし、一度考え直してみると、そこに合理的な理由は見つかりません。
たくさんのゲームを抱えるパブリッシャーは、個々のゲームタイトルに対して、開発者ほどのリスク保証をかけておく必要はあるのでしょうか。必要ありませんよね。
いくつものゲームをリリースしているわけですから、上手くいくゲームもあれば上手くいかないゲームもあります。そうしてバランスが保たれるわけです。しかし、開発者はたいていの場合1つか2つのゲームしか持っていません。そのゲームが上手くいくかいかないかに掛かっている部分が大きいのです。
そういったことから──これは私の弁護士的な考え方なのかもしれませんが、こうしたリクープにあまり目的性を見いだせないのです。こうしたリスクに関しては、開発者よりもパブリッシャー側が負うべきだと考えています。
また、パブリッシャー側の取り分が35%というフラットレートはとても良心的なものだと思っています。というのも、業界的にはリクープ後に収益配分率が「30:70」になるパブリッシャーは良心的なほうで、多くのパブリッシャーは、リクープ後も50%もの取り分をキープするみたいです。
Xenonauts 2
──パブリッシャーとして必要なことは何だと思いますか?
Tim:開発者たちが契約を決める最大の要因は、パブリッシャーの実績ですよね。その点では、私たちは非常に良い実績を収めてきていると思います。2022年に発売したゲームタイトルはいずれもSteamで10万本以上の売上を記録していますし、初年度の売上本数合計は100万本にも到達しました。
バイラルヒットはありませんが、一貫した実績を残してきています。この「一貫性」は、私たちが何かを提供してきたという証です。さらに、私たちが流行に流されがちな日和見主義的なパブリッシャーではないという証明にもなります。
最近は、日和見主義的な流行ばかりを追うパブリッシャーを見かけることが増えたように感じています。手当たり次第にゲームと契約を結び、上手くいきそうなゲームタイトルだけを持ち上げて、上手くいきそうにないゲームタイトルはすぐに切り捨てるようなパブリッシャーです。もはや搾取的とも言えます。そうしたパブリッシャーは、ゲーム開発者たちが望むようなパブリッシャーではないはずです。
──最後に、『Old World』をリリースしてから、1年と少しが経ちましたが、
Tim:最初のころは有料プロモーションを多用していました。もちろん予算は小さく、大したものではありませんでしたが……発表したゲーム1本につき$50,000(約750万円)ほどですかね。もちろん、今でも広告を出したりはしますが、予算はさらに小さくなりました。マーケティングにかける全費用のうちの1%ほどです。これは大きな変化ですかね。
あとは、それぞれの分野に特化した人員の確保ですね。もっと早くたくさんの人を雇っておくべきだったと感じています(笑)。
(日本のメディアに向けての特別質問)
──多くのインディー・ストラテジー/
Tim:日本は、ストラテジー/シミュレーションゲームにとって最も重要な市場のひとつだと考えています。というのも、日本のプレイヤーは非常に協力的で、気に入ったゲームをX(旧Twitter)などのSNSで積極的にシェアしてくれます。特に、大企業のような大規模な広告予算を持たないインディーパブリッシャーにとっては、そういう風にプレイヤーたちがゲームの面白さをシェアし合ってくれることがとても大きな力になるのです。
さらに、日本のメディアやインフルエンサーたちは、積極的にインディータイトルを取り上げてくれます。本当に感謝しかありません。
現在、弊社のタイトル28本のうち、27本は日本語ローカライズが決定しています。唯一日本語対応が発表されていないタイトルも、開発元がローカライズに対応するのを待っている状態です。私たちは、日本語は必須言語だと考えており、すべてのゲームを日本語にローカライズしていく予定です。