ゲームはフェミニズム的にもホットなメディア
フェミニストで美術史研究者であり、パンセクシュアルで車いすユーザーの近藤銀河による初のエッセイ『フェミニスト、ゲームやってる』が5月24日に出版されます。
『The Last of Us Part II』、『エーペックスレジェンズ』、『アサシン クリード オデッセイ』、そして『スプラトゥーン3』といったAAAタイトルから、『ゴーンホーム』や『アンパッキング』といったインディーゲームまで、さまざまなゲームをフェミニズムの視点から評論するもので、従来のビデオゲーム評論には無かった、新たな観点が提示されます。
「トラウマを語ったり、現実の世界の問題を考えたり、そうした行為を少しだけ遠く、少しだけコントロールできる状態でやっていく。ゲームのそんな機能に私は助けられてきた。そこでは自分にとって辛い問題を、距離をとりつつ思考することができる。この本も、誰かにとってそんな役割を持つことができたら、そしてそんなゲームを、フェミニズムを広めることができたら、そんなふうに考えながら今、書いている」(「おわりに」より)
他にコラムでは障がい、都市、コミュニティ、能力主義などのテーマ別に、『Horizon Zero Dawn』から『ストリートファイター6』まで様々なゲームが横断的に描き出されます。フェミニストに向けたゲーム作りガイドも収録されます。
哲学者の三木那由他は本書の出版に際して、「ゲームをつくり、プレイし、プレイし損なう。そのすべてがフェミニズムの実践たりうると教えてくれる」とコメントを寄せています。
目次
Ⅰ あの有名なゲーム、やってみた
#01 かくして私は収奪と救出に失敗する──「ピクミン4」、やってみた
#02 多様なキャラクターのシューターゲーム──「スプラトゥーン 3」「オーバーウォッチ」「エーペックスレジェンズ」、やってみた
#03 大作ゲームの女性表象とクィア表象の歪みと良さを体現する──「アサシン クリード オデッセイ」、やってみた
【コラム】語られるレイシズム・語られないセクシズム
Ⅱ クィアが活躍するゲーム、やってみた
#04クィアがオプションじゃない恋愛ゲーム!──「ボーイフレンド・ダンジョン Boyfriend Dungeon」、やってみた
#05 ゲームの難しさがマイクロアグレッションを表現する?──「セフォニー Sephonie」をやってみた
#06 選べない環境と自分自身のはざまで──「ラスト・オブ・アス パート2」、やってみた
【コラム】ボーイズクラブとしてのゲームコミュニティ
Ⅲ マイノリティの日常を感じるゲーム、やってみた
#07 トランスジェンダーの日常と過去の解釈──「テル・ミー・ホワイ Tell me Why」、やってみた
#08 バイセクシュアルの表象とモノの方を向くお引っ越しゲーム──「アンパッキング」、やってみた
#09 トランスジェンダー男性同士の交流を描く──「ペイトンの術後訪問記 Peyton’s Post-Op Visits」、やってみた
#10 卒業間近のノンバイナリーの学生たちの日常を活写する ──「ノーロンガーホーム No Longer Home」、やってみた
【コラム】ゲームと能力主義
Ⅳ 80-90 年代を描くゲーム、やってみた
#11 90 年代の Zine とレズビアンの反抗物語 ──「ゴーンホーム Gone Home」、やってみた
#12 クィアなミドルエイジ女性の過去・現在・未来を描く──「レイク Lake」、やってみた
#13 トランスジェンダー女性記録を消しながら記憶をたどる──「イフ・ファウンド… If Found…」、やってみた
【コラム】ゲームと障がい
Ⅴ 歴史を想像するゲーム、やってみた
#14 台湾の戦後と恐怖を再訪するホラーゲーム──「返校-Detention-」、やってみた
#15 哀悼と歴史の可能性を考える──「シベリア:ザ・ワールド・ビフォー Syberia: The World Before」、やってみた
#16 男らしさに呪われる運動家たちの殺人事件──「ディスコ エリジウム Disco Elysium」、やってみた
#17 社会運動の理想と抵抗のあいだに…──「スパイダーマン:マイルズ・モラレス」、やってみた
【コラム】オープンワールドと都市の遊歩者
Ⅵ ファンタジー世界を旅するゲーム、やってみた
#18 ヘイターと戦うレズビアンでトランスなロードムービー──「ゲット・イン・ザ・カー・ルーザー Get In The Car, Loser! 」、やってみた
#19 過去と未来を作り変えられる魔女になってどうする?──「コズミックホイール・ホイール・シスターフッド The Cosmic Wheel Sisterhood」、やってみた
#20 かつて私は、あのゲームの余白にフェミニズムやクィアを投影していた──「ドラゴンクエストⅥ」「ファイナルファンタジーⅥ」「MOTHER2」、やってみた
【コラム】フェミニストのためのゲーム作りガイド
おわりに フェミニストたち、ゲームやっていく
参考文献
さらにゲームを知るための文献リスト
フェミニストのためのゲームリスト
■著者 近藤銀河 (こんどう・ぎんが)
1992年生まれ。アーティスト、美術史家、パンセクシュアル。中学の頃に難病 CFS/ME を発症、以降車いすで生活。2023年から東京芸術大学・先端芸術表現科博士課程在籍。主に「女性同性愛と美術の関係」のテーマを研究し、ゲームエンジンや CG を用いた作品を発表する。ついたあだ名が「車いすの上の哲学者」。ライターとしても精力的に活動し、雑誌では『現代思想』『SFマガジン』『エトセラ』、書籍では『われらはすでに共にある──反トランス差別ブックレット』『インディ・ゲーム新世紀ディープ・ガイド──ゲームの沼』など寄稿多数。本書が初の単著。