以前「学生が新卒でゲームライターになる(=正社員として就職する)道は(ほとんど)ない」という、身も蓋もない書き込みをしてしまいました。ただ、振り返ってみると1980年代後半、イケイケドンドンな編集部が中心となって、ゲームライターの大量雇用をしていた時代がありました。もっとも、当時も編集部内に机が設けられ、アルバイトとして経験を積みながら、そのまま契約社員そして正社員へとステップアップしていくスタイルが一般的だったとは思いますが……。当時と今とでは何が違うのでしょうか? ちょっと考えてみました。
①業界全体が成長期で人手不足だったうえ、まともなゲームライターがいなかった
②発売前のROMカートリッジや資料を扱ううえ、メーカーから貸与された開発機上でプレイしつつ記事を書くため、アルバイトといえども編集部内で拘束することが必要だった
③急ぎの資料をバイク便などで送る必要があり、編集部内に囲い込む方が経済的だった
④情報源としてのゲーム雑誌の価値が今よりもずっと高かった
⑤世の中がバブルに浮かれ始めていて、フリーランスという働き方が許容されていた
おそらく、このへんが主な理由だったのではないでしょうか。①については今も同じですが(市場は拡大していますし)、②はスマホゲームに主戦場が移行したため不要。③と④はインターネットの普及で意味がなくなってしまいました。その結果、一握りの編集者が大勢の在宅ライターを管理しつつ、メールやSkypeなどで打ち合わせをしながら記事を書かせるというスタイルが定着したのだと思われます。誰でもネットでメディアが立ち上げられるようになったため、編集部が分散化した結果、新卒を雇用する余裕もなくなり、今に至るというわけです。
一方で「新卒」「正社員」という制約を外してみれば、ゲームライターになる方法が以前とは比べものにならないくらい広がっているとも言えます。「ゲームライター」「求人」でネット検索すれば、大量の検索結果がヒットします。中にはアルバイトからスタートして、実績次第で正社員採用を唄っている編集部もあります。そのため学生のうちから、ウェブ媒体でライターデビューすることも、それほど難しい話ではないのではないでしょうか? 特に地方在住の学生でも挑戦できるようになったことは、大きな変化だと思います。
ただ、やっぱり続かないんですよね。もちろん前回書いたように、ライターはいつ初めても、いつ止めてもOKですから、自分のキャリアパスにあわせて方針転換をするのも、普通に「アリ」だと思います。編集部は嫌がると思いますが、本人の自由意志が尊重されるべきでしょう。特にその人にしかない「強み」がないと、「誰でもできる」簡単な仕事しか回ってこないので、原稿料も上がらない。限界を感じたら、いっかいライターをやめて別の仕事について、そこで得た経験や専門知識を糧に、気が向いたら再びライター業に復帰するといいでしょう。
逆に社会人の方でゲームライターをやってみたいと思う人がいたら、まず週末ライターから初めて見るのがオススメです。余談ですがこの辺のテクニックは、ヨッピーさんの「明日クビになっても大丈夫」に詳しいので、一読をお勧めします。実際に編集部からすれば、「その人にしか書けない記事」を発注したいと思うもの。そして、専門知識をはじめとした、その人ならではの資質が記事に付加価値を生んでいきます。同じ内容のゲームコラムを書くにしても、無名のライターより、アイドル声優が書く方が注目を集めますよね。それと同じだと思います。
自分も30歳前後で数年間、ゲームの仕事をほとんどしなかった時期があります。会社員を止めてフリーランスになったころです。ゲーム批評をやめて、ライターになったのはいいんですが、今さら他のゲーム雑誌で書くのも気乗りしなかったので、一般企業の社内報とか、中古車チェーンのパンフレットの編集などをしつつ、新聞でコラムの連載を毎月2本続けていました。そして、そこで稼いだお金を使って、E3やGDCなどの海外イベントを取材していました。それをホームページで書いていたら、だんだんと声がかかって……という感じです。
ちなみに「海外イベントを取材して」と書きましたが、別に誰から依頼されたわけでもありません。まあ、コラムのネタになればいいかなというくらいでした(だからホームページに書いていたわけですね)。ちょうどいいことに、当時は紙のゲームメディアが休刊していく一方で、ウェブメディアが立ち上がりはじめ、書き手を求めていました。そうした中で知り合いを通じて声がかかったというわけです。編集部としても「ホテル代・渡航費がゼロで海外取材に行ってくれる人」は普通にありがたかったと思いますし、それは今でも同じなんじゃないでしょうかね。
その後、新聞のコラム連載がなくなり、社内報やパンフレットの仕事がなくなり・・・と、いろいろと仕事の場が変わっていきましたが、そんな中でも、ゲーム以外のメディアで仕事を続けていました。けっこう長かったのがPCのフリーソフトのムックむけ原稿作成で、2010年あたりまで続けていました。まあ、それくらいゲームの仕事がなかったということです。実際、ゲーム一本になったのは、ここ5-6年じゃないでしょうか? それでも、ちょこちょことゲーム以外の仕事があり、最近では久々にショップブランドPCの導入事例記事なども書くようになっています。
正直、締切が重なってたいへんなことはあっても、ライター業が辛くて止めたいと思ったことはないので、「ゲームライターの続け方」と言われても、今ひとつピンとこないのも事実です。あんまり儲からないのも事実ですが、この仕事、どんどん上から辞めていくので、続けているだけでそのうち第一人者になれる(はず)という気楽さもあります。そのためには、いろいろな仕事をやって、自腹で機材を買ったり、取材にいったりして、記名記事を書いて、時にはコミュニティ活動なんかもやって、付加価値をつけていくのがいいのではないでしょうか?