メディアが報道しない問題を考える


ウェブメディアも様々な情報を発信しますので、一つの報道機関といえます。どの程度からをメディアと呼ぶべきかという問題はありますが、自他共に「メディアだ」と認識した時点で、ウェブメディアには様々なことが社会から要求されます。

それは報道倫理にのっとった公平性や、情報の正確性などですが、メディアにとって悩ましい問題の1つに「何を取り上げるか」というテーマがあります。
ゲームライターも広い意味でジャーナリストである以上、「何を取り上げるか」問題から逃れることはできません。

SNSでよく見られる投稿に

「なぜメディアはこのような重要なニュースを取り上げないのか」
「メディアはもっと~~の現状を報道すべきではないか」

というものがあります。
場合によっては

「何か圧力がかかっているのではないか」

というような憶測が飛ぶこともあります。

ゲーム系のメディアでは、例えば大手ゲームメーカーがガチャシステムの不具合に真摯に対応していないのではないかというようなニュースがあったとして、そのニュースを掲載するゲームメディアが少ないときに、「妙な忖度(そんたく)があるのではないか」という論調がSNSの一部に蔓延することがあります。

さてこれって、実際はどうなっているのでしょうか。
この記事ではメディアが報道しない問題の構造について、筆者の視点からざっくり語ってみたいと思います。

まず初めに、私の場合ニュースを取り上げるときに何らかの圧力を恐れて意図的に掲載を見送ったことはありません。5年以上ウェブメディアを運営していますが、圧力というのは一度も感じたことはありません。おそらく私以外の多くのウェブメディアも同じではないでしょうか。(※)ウェブメディアがこれだけ乱立し、SNSでの発信が自由にできる今において、いくつかのメディアに圧力をかけたところで情報の拡散を防ぐことなどそもそもできません。メディアが情報をつかんだ時点で情報主体側には止めるすべは無いといえます。

※(2018/05/0:55)この部分について、主にTwitterで「いやいや圧力はあるでしょう」というご意見を多数頂きましたので、上記部分が問題のある表現であったことをお詫びし、補記いたします。
上記からはゲームメディアおよびその他のメディアに対する圧力は全くないと自然に読み取れてしまいますが、実際にそうではありません。これは私が「圧力になんて皆さんが思っているほどにはないのですよ」と印象付けたかったための表現ですが、かなり下手くそな表現でした。
実際に、特に大手、あるいは発信力のあるメディアに対しては圧力と呼べるほどのより強い要望があったりするようです。私の運営するゲームメディアの場合は、稀に「それちょっとなんとかなりませんか?」というような要望を頂くことはありますが、(無茶なものは)無視してしまうか、(丁寧なものは)できませんと返答するかのどちらかで対応しており、結果記事の内容を修正したり、取り下げたりしたことはありません(注:こちらのミスや不適切な表現への指摘は除く)。その後「言うことを聞かないと〜〜するぞ」と言われたことはなく、多くのメディアはこんな感じではないかと推察するものです。圧力はあるっちゃあるかも知れないけどごくごく珍しいケースで、それも一部のメディアしか黙らせることができないのであって、あるニュースが取り上げられない問題の主要な理由じゃないですよ、というのが言わんとすることです。

ではなぜ掲載されないニュースがあるのかというと、それはメディアが情報を掲載する優先順位に理由があります。

メディアにとって掲載する最も優先順位が高いのは「世の中が知りたがっているニュースや情報」です。これはメディアが営利事業として成り立つためには必要不可欠で、ウェブメディアの場合はこの割合が8~9割を占めるのではないかと思います。

えっ!?そんなに!?

と思う方もいるかもしれませんが、ウェブメディアの収益性は実はあまり高くありません。常に情報を発信し続けることで成り立つウェブメディア事業は、人を多く使い、また情報収集や取材など負荷の高い事業です。まず第一に、メディアが存続するために儲かる記事を多く掲載する必要があります。
※この点はなかなか悩ましい問題で、ジャーナリズムを目指してライター業に入ってきた方が悩む点でもあります。書きたいことが書けない問題、ですね。

1つの例として、最近eスポーツ関連のニュースをメディアでよく目にするようになったと思います。少し前までは関連情報を掲載してもあまり閲覧されませんでしたが、ここにきて話題性が上がっているため、メディアにとってはeスポーツ関連の報道がしやすくなってきました。
このように端的に言えば、「世間が関心を持っている=儲かるネタであればメディアは掲載する」のです。閲覧数がそのまま売り上げにつながりやすいウェブメディアであればなおさらです。重要な情報なのにメディアに掲載されないのは、少数の方にとっては重要であっても、実は多くの人にとって興味の無い情報だという可能性があります。

「なぜメディアはこれを取り上げないのか」問題については、ほぼこれで説明がつきます。「世の中の興味関心が薄く、記事化しても労力ほどの収益を得られない」というネタは、通常の業務フローの中ではなかなか取り上げられません。メディアが赤字になってつぶれてしまうからです。

しかし、メディアはそれだけではダメというのは正しい意見です。

もしあなたが、「この情報はもっと広く報道されるべきだ」と感じた場合は、SNSなどで積極的にそれを拡散していただけると助かります。
SNSで広くシェアされている情報は、メディアも「世の中が求めている」と判断し、しっかりとした取材を検討する可能性があります。できれば「メディアはおかしい」という論調ではなくて、「このように重要なことは広く知られるべきだ」という前向きな姿勢で拡散していくのが良いのではないかと思います。これは「メディアを批判してくれるな」ということではなく、メディアは多種多様の批判に常にさらされおりある意味批判には慣れているので、批判がメディアの姿勢を変えることはあまり無いからです。「これを取り上げないのはメディアとしては問題である」と思わせることが肝要です。

話を戻して、では8割~9割が「儲けるための報道」だとして、残りの1~2割はどのような情報を掲載しているのでしょうか。
この部分がまさに「儲からないけど社会的に必要な報道」です。

例えば私は台湾や中国、ヨーロッパなどのゲームイベントや、地域のIT教育などについての取材を継続していますが、これらは1回ごとに数十万円単位で赤字になります。場合によっては100万円以上の赤字が出ることもあり、というのは「稼ぐための記事」と比較するとほぼ閲覧されないからですが(これは私の未熟さ故でもありますが)、経営の視点から見ると今すぐ止めるべきものです。

しかしメディアにはその事業の性質上、「社会に利益を返さなければならない」という責務があります。これを果たすことを前提にメディアは様々な面で優遇されており、例えばインタビューや現地取材はお金を払うことなく実施でき、プレスリリースなどで情報を優先的に受け取ることができるのです。ゲームメディアはゲームイベントではプレスパスが無料で発行され、会場内のほぼ全ての区画に立ち入ることができ、専用のプレスルームが用意されます。
したがって私のメディアの場合は、利益の一部を使って海外のゲーム業界関連の動向を取材し記事掲載することで、社会に利益を還元するようにしています。

儲からないけど重要な情報の掲載というのは、メディアにとってはこの1割~2割の枠で行うべきものです。どの程度行えるかはメディアの規模や収益性などによって異なります。平たく言えば、組織が大きければ細かなネタも吸収しやすく、また儲かっていれば社会還元的な取材などに経費をかけられることになります。小さな、儲かっていないメディアであればこの種の報道の実行は難しくなります。
私の場合も他にも取り上げたいネタはたくさんありますが、メディアの体力的に手が回らないというのが実情です。日本は大きな国で、ゲーム産業も大きな産業ですので、懸案事項も多数あります。その中でより社会的に意義があると判断できるものがあれば、ライターさんと相談しながら優先度を組み替えて記事化していくようにしています。
これがメディアの事情ですが、それでも社会性の高い深い記事を継続的に発信しているゲームメディアも存在します。頭が下がるばかりです。もし「これは大事なことだな」というような記事を見かけたら、是非無理のない範囲でSNSでシェアするなどしてお知り合いに勧めていただければと思います。身を切った報道に反応があるというのはメディアやジャーナリストにとって大切なことです。必ずしも賛同でなくても良いと思います。

もっといろいろ書きたいことはありますが、一旦ここまで。
最近「何故これを掲載しないの?」と質問されることが何度かあり、メディアの事情を少しだけ書いてみました。気が向いたらまた続きを。