広告の話からデザインの話へ


 

ゲーム専門学校の授業にもかかわらず、なかなかゲームっぽい話にならない「ゲームメディア概論」の第5回目です。今回は前回の課題「若者が、古本屋をもっと利用するようになるコピーを考えてください」の講評から行いました。といっても主体は自分ではなく学生で、学生が提出してきた課題をGoogleスプレッドシートで一覧表示し、一人一票ずつ得票してもらうことにしました。その結果「古い本でも、あたなにとっては新しい本。」が一番票を集めました。

もっとも、自分はコピーライターではありませんし、そもそもこの授業の狙いは「良いコピーが書けるようになる」ことではないので、これらの善し悪しを上から目線で講評するつもりはありません(学生の投票に任せたのも、一つにはこれが理由です)。ポイントは「広告コピーは広告主と消費者が抱える互いの課題を同時に解決するもの」であること。そして、それはゲームデザインと関係性が深いことを学生になんとなくつかんでもらうことにありました。

ただ、そのためには広告主(ここでは古本屋)がどのような課題を抱えているのか、深く理解しなければいけません。でないと、トンチンカンな広告になってしまいます。今回のように、それが設定されていない課題であれば、回答者側が自由に想像し、そこから広告コピーを考えてOKというわけです。ただし、その点について想像をめぐらした学生はいなかったようでしたので、その点を指摘するに留めました。

その上で(あんまり広告コピーに深入りするつもりはなかったのですが)、もう一回だけ広告コピーの課題を出すことにしました。お題は「東京駅を午前6時に出発し、新大阪駅に午前8時22分に到着する新幹線のぞみ号を満席にさせるための広告コピー」です。結局、広告の目的は消費者に商品を購入させる(=行動させる)ことです。それも押しつけがましくなく、自発的に購入させる必要がある。これはF2Pゲームのゲームデザインで非常に重要な要素となります。

※上記2つの課題は書籍「広告コピーってこう書くんだ!読本」(谷山雅計/宣伝会議)に詳しいので、興味がある方は一読をお勧めします。

というわけで、思わず枕が長くなってしまいましたが、後半では本日のテーマ「デザインって何?」に入っていきました。デザインといえば日本では「綺麗なもの、可愛いもの」といった具合に、反射的にビジュアル的なイメージが連想されます。しかし、ここでいうデザインとは「誰かの課題を解決すること」。その意味では広告コピーを考えることもデザインの一種ですし、視野を広げればあらゆる商品企画や、起業ですらもデザインの一種だと考えられます。

もっとも、いきなりこちらの答えを押し付けても、右から左に流されてしまうだけなので、学生といろいろなディスカッションを続けながら、じわじわと話を寄せていきます。その過程で思わぬ方向に議論が発展していったりするのも、またおもしろいところ。特に蜘蛛の巣や砂丘の風紋など、自然や風景も「デザイン」なのかという話が出てきたのは、こちらの予想を斜め上に裏切るものでした。そこから神という概念が出てきたのも、おもしろかったですね。

また「デザイン=課題解決」という議論の折線として、芸術との違いについて議論が進んだときも、興味深い話に展開していきました。いわゆる「ゲームは芸術か?」問題です。特に留学生にとっては「ゲームは芸術である」という考え方はなじみ深いものだったようです(東京ネットウエイブは1/3が留学生)。しかし日本では、そうした考え方は一般的ではありません。時間があれば、改めてこの議論を深掘りしていくのも、おもしろいかもしれません。

こんな風に議論があっちにいったり、こっちにいったりするのが、こうした対話式授業のおもしろいところ。綺麗なパワポを作って、バーッと話を進めていくだけでは、なかなかこうした寄り道はできません。また、こうした脱線ができるのが、一回こっきりの特別授業との違いだともいえます。ただ、あんまり議論が発散しすぎると、ただの雑談になってしまいます。このバランスを取るのが、なかなか難しいところです。

そのため終盤、半ば強引にチュートリアルの例を出して、良いチュートリアルとは「上司(ディレクター)とユーザーの双方の課題を満たしていること」に話を引き寄せました。もっとも、話はそこからさらに飛躍して、ユーザーニーズを組み上げながらゲームをデザインし、さらにマネタイズするという、ゲーム作りの構造のデザインにまで話が及ぶことに。そんなこんなで綺麗な着地はできませんでしたが、何か引っかかりが提示できれば良かったのですが・・・。

 


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