ストレスループとゲーム分析


気がつけば夏休みまであと2回です。というわけで、「遊びとはなんぞや、それは主観的な存在である」という禅問答みたいな議論から始まった本講義も、いよいよ山場にさしかかってきました。「ストレスループ」です。本概念はゲームのおもしろさを「ストレス→キーファクター→発散」という一連のループ構造でモデル化するもので、昨年本授業を受け持つにあたり、必死こいてひねり出したものです。ただ、昨年度はいきなりこの概念が授業中に出てきたため、学生が面食らってしまったきらいがありました。そこで今回は、MDAフレームワークやEMSフレームワークといった既存のゲーム分析手法と融合させることを当初から念頭においてカリキュラムを設計しました。

資料を見ていただければわかりますが、ストレスループは「認知・行動モデル」をデザインするための方法論という位置づけとしています。「認知・行動モデル」とは、ゲームで快感を得る際に、プレイヤーの心理内で「目標→行動→結果→判定→報酬」という心の動きが見られるというモデル図で、「プログラミングのはじめかた」(あすなこうじ著)から引っ張ってきました。もっとも、この認知・行動モデルだけではまだ、ふんわりとしています。そのため、よりわかりやすくするために、ストレスループという概念を接続させています。

実際、ナムコの初期アーケードゲームをストレスループで分析していくと、おもしろいことがわかります。まず「ジービー」「ギャラクシアン」あたりでは、まだストレスループの構成要素であるキーファクターがハッキリしていません。これが「パックマン」でいきなり、キーファクターがパワーエサという形で明瞭になります。以後は「ラリーX(煙幕)」「マッピー(ドア)」「ディグダグ(岩)」といった具合に、形を変えつつさまざまなゲームで登場していきます。実際、ストレスループは100円3分というゲームセンタービジネスと相性がいいものでした。

では家庭用ゲームではどうでしょうか? 「ドラゴンクエスト」を例にとっていますが、ここでも「ストーリーが先に進まない→レベルアップ&重要アイテム→進行」という形でストレスループが存在していることがわかります。格闘ゲームにおける必殺技もキーファクターの変形です(通常技の応酬だけでは一進一退が続き、ゲームが次第にだれてくる。そんな時に必殺技が決まると、大きく戦況が変わる)。すべてのゲームがストレスループでモデル化されるわけではありませんが、一つの型として有効ではないかと思われます。

ちなみに自分が「ストレスループって、ありかも?」とひらめいたのは、「ゲームニクス」の書籍編集に関わったときでした。ゲームニクスではゲームのおもしろさは「絶え間なく設定される課題=ストレスを克服していくおもしろさ」と定義しています。つまりゲームとは、絶え間なくプレイヤーにストレスを与え続ける存在だというわけです。もちろん、そのストレスはプレイヤーに克服してもらうことが前提になっている。そして、だからこそプレイヤーには想定外のストレスを提示してはいけない・・・というわけです。

しかし、ゲームニクスでは肝心の「プレイヤーに与えるべき、本来のストレス」については言及がありません。それでは、本来のストレスとはどういったものか。そして、それはどのようにモデル化されるのか。それを地下鉄の車内で考えていたときに、「パックマン」の存在に行き当たりました。そこで去年の5月くらいに、大慌てでノートにメモしたのがこのモデルの原型になっています。それもこれも、東京ネットウエイブで授業をするようになったことがきっかけでした。こんな風に「教える」ことは知識の棚卸しになるのでオススメです。

というわけで次回はゲームのストレスループの外側にある、現実世界のストレスループと、ストレスループを用いたゲームと現実世界の関係性について解説していきます。まあ、なんとか11回の授業で格好がつくのではないでしょうか・・・? とにかくあと1回授業をやれば待望の夏休みです。ラストランということでがんばります。


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