『Beholder』開発者メールインタビュー


全体主義国会でアパートの管理人となり、住人をスパイして回るアドベンチャーゲーム『Beholder』のレビューを書くにあたり、いちばん興味を惹かれたのがシベリアのゲーム開発者会社によるタイトルという点でした。ゲームの陰鬱な世界観がローカルなコンテキストと良くなじんでいると思ったのです。そこで開発者にメールで質問したところ、思いがけずガッツリした回答が届きましたので、こちらで公開しました。

ーーウォームランプゲームを紹介していただけますか?

ウォームランプゲームはAlawar Entertainmentの内製ゲームスタジオです。スタジオはロシア・シベリアのバルナウル市にあります。AlawarはPCとモバイル(iOS&Android)プラットフォーム(iOSとAndroidの)でカジュアルゲームを配信するパブリッシャーとしてヨーロッパ・ロシア・アメリカで知られています。日本でも『Farm Frenzy』『Treasures of Montezuma』や、隠されたアイテムを探し出すゲームをいくつかプレイされた方がいるかもしれませんね。

最近AlawarはSteamプラットフォームに焦点を当てることに決めました。 ウォームランプゲームはSteamで配信するPCゲームを開発するために作られたんです。ウォームランプゲームのメンバーはみな経験豊かな開発者で、10年以上ここで働いています。もっとも、その時はAlawar Stargazeという内製スタジオでしたが。当初ウォームランプスタジオは12人で構成されていましたが、今ではチームはもう少し大きくなっています。

ーー『Beholder』の開発にどれくらいの人数や日数がかかりましたか?

本作はウォームランプスタジオの12人のメンバーによって作られました。もちろん、それ意外にプロデューサーのEveny Sisterなども開発にかかわっています。開発スタートは2015年の秋で、リリースは2016年11月だったので、だいたい1年ちょっとかかっていますね。

ーー『Beholder』のテーマ設定と、ゲームデザインはどのように行われましたか?

もともと「スパイっておもしろいテーマだよね」というアイディアから始まりました。タブロイド紙にはセレブたちがどこでどんな生活を営んでいるかといった情報が満載ですし。それに人はみな、近所の人がどんな暮らしをしているかに興味があります。そこで我々は覗き見や盗聴をネタにおもしろいゲームにできると思いました。

さて、ここからどんな風に付加価値を加えて、ゲームに発展させていくかですが、ここはゲームを遊んでもらえれば一目瞭然でしょう。全体主義国家という世界設定です。スパイというアイディアを全体主義の概念に結びつけるのは非常に簡単でした。なぜなら、社会全体が監視体制と密接に結びついているからです。そして多くの人が全体主義がなんであるか、学校の授業で知っています。そのため、わざわざ世界観について説明する必要がありません。しかもプレイヤーに対して「あれをしろ、あれはしてはいけない」といったルールを押し付けることが自然にできます。なぜなら、それが全体主義社会というものですからね。世界観とゲームシステムがなじみやすいのです。

ーーゲームを開発するためにゲームエンジン、ミドルウェア、またはツールを使用しましたか? フラグ管理がすごそうですが、何か特別なシステムを開発したりしましたか?

ゲームはUnityで開発されています。『Beholder』はストーリー主導のゲームで、ランダムな要素はなく、すべてが計画されています。 そのうえで2つの要素を管理することが大事でした。ゲームの中で発生する各々のイベントの発生タイミングと、イベントの連鎖でおきるストーリーラインの管理です。いくつか細かい技術的なやり方で解決しましたが、何か特定のイベント管理ツールといったものは開発していません。『Beholder』はストーリーゲームであり、我々がやりたかったのは、プレイヤーが主人公に感情移入して、自分の意思でその人生を決めさせるということでした。

ーー開発で一番大変なことは何でしたか? そして、どのように解決しましたか?

なんといっても、途中でゲームの内容が大きく変わったことです。技術的な課題ではなく、ゲームジャンルに関するものでした。当初私たちはスパイゲームと経営シミュレーションを統合しようとしていました。主人公のカールはアパートを経営しながらスパイ活動を行う予定でした。NPCがアパートを借りると、毎月の家賃が収入として入ってきます。そこで得たお金を元に、さまざまなアイテムを購入して、スパイ活動を実施するといった具合です。

しかし、開発を続けているうちに、それぞれの要素が摩擦をおこしはじめました。テストプレイヤーの中に、お金儲けに走るものがでてきたのです。それは私たちが望んでいたものではありませんでした。プレイヤーにもっとストーリーに浸ってもらいたかったのです。アパートの住人がどのような課題を抱えていて、それを助けるか否か、もっとプレイヤーに真剣に考えて選択してもらいたかったのです。それを通してのみ、プレイヤーが住人達と対話できるような・・・。経営シミュレーションの要素があれば、当然プレイヤーの中にはお金儲けに走る者が出てくるでしょう。もし経営シミュレーションの要素がなければ、そんなことにはなりません。そこで、我々は経営シミュレーションの要素をすっかり削除することにしたのです。

ゲーム内に登場する商人のキャラクターは、その副産物です。経営シミュレーションの要素をなくしたことで、主人公がアイテムを購入できるように、追加で作りました。また、経営シミュレーションの要素を削除しても、プレイヤーにおもしろそうだと思ってもらえるために、追加のグラフィックスやキャラクターのアニメーションを追加しました。

ーーゲームを開発するために参考になったゲーム・映画・小説・漫画などはありますか?

ジョージ・ウォーエルの小説「1984」を主に参照しました。他にハクスリー、ザミャーチン、ブラッドベリーなどの作家によるディストピアものの作品を参照しました。 またフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルクの傑作映画『善き人のためのソナタ』(注:2006年のドイツ映画。東ドイツのシュタージのエージェントを主人公にしたドラマで、当時の東ドイツが置かれていた監視社会の実像を克明に描いている。第79回アカデミー賞外国語映画賞を受賞 )と多くの共通点を持っています 。

ーー『Beholder』はロシアのコンテキスト(文化・歴史)などを反映している点で非常にユニークだと思います。開発側としてはどうでしょうか? 外国人がこうした感想を持つことについて、どのように思われますか?

ぶっちゃけ、このゲームで全体主義という設定を導入した理由はシンプルです。ゲームを始めると、プレイヤーははじめにルールを理解する必要があります。ゲームの世界がファンタジーなのか、SFなのか、どんなルールがあって、どんな法律があるのか。ゲーム内世界の住人の常識とは何か、プレイヤーと何が同じで、何が違うのか、教えなければいけません。この作業が必要なくなるのです。というのも、誰もが(過去の歴史と人類全体の歴史の両方から)全体主義国家が持つイメージをすぐに連想でき、ゲーム内世界のルールをすぐに理解できるからです。これによってプレイヤーはゲーム内世界に、すぐに降り立つことができるのです。

本作がロシアの文化と歴史を反映しているという見方については、部分的に真実です。ロシアは歴史の中で全体主義的な時期がありましたからね。『Beholder』がロシアゲーム(より正確にはソ連ゲーム)であるというコメントも理解できます。もっとも、ヨーロッパの多くの国々で、全体主義的な時代がありました。実際に2016年10月にβテストを行うと、ハンガリーやドイツ、さらに別の国々のプレイヤーから、同じような意見をもらいましたから。

また本作のテーマは今や民主主義を標榜する国々でも見られます。エドワード・スノーデンがあかしたように、今やアメリカ政府は自国民だけでなく、ドイツのメルケル首相すら盗聴していました。ウィキリークスによって多くのスキャンダルが明らかになっています。 つまり、一般論ではありますが、『Beholder』には多くの国々で普遍的に見られる現代的な要素や傾向が含まれています。だからこそ『Beholder』を遊ぶと、そのような感想を抱くのではないでしょうか。

ーー『Beholder』はエンタテインメント目的で作られたと思いますが、何か追加の意図はありましたか? シリアスゲームやアドバゲームなどです。

私たちは政治家ではありませんし、『Beholder』は私たちの政治的声明ではありません。私たちはゲームを作って、プレイヤーに何か新しい体験を提供したかったのです。それにゲームを作り始めた2015年秋の時点では、まだ世の中はそれほど騒がしくなっていませんでしたからね。ゲームを作っている間に、どんどん現実世界が追いついてきたのです。 そのため『Beholder』には政治的な意味合いは何もありません。

しかし、私たちはプレイヤーの感情をゆさぶり、ストーリーについて深く考えてもらうようなゲームを作りたかったのです。ゲームの中核にあるのは道徳的な意志決定です。何が善くて、何が悪いのか、本作に明確な答えはありません。プレイヤーに自由に選択してもらって、その結果どのような展開がおきて、どのような結末を迎えるか経験してもらい、そこから何かを得てもらいたかったのです。 そのため、本作がプレイヤーに与える感情は他と異なっています。

多くのゲームがプレイヤーに楽しさや喜びをもたらすのに対して、本作はより暗くて憂鬱な感情をもらたします。しかし、これは実験的であり、感情をゆさぶるものです。つまり本作もまたエンタテインメントなのです。

ーー日本のユーザーにメッセージをどうぞ。

私たちは日本で流行っているゲームが、かつて私たちが楽しんだものとは、大きく異なっていることを知っています。しかし『Beholder』が、たとえ日本のゲームと違っていても、何かプレイを通して素晴らしい経験をもたらすことができるように願っています。Alawarは実験を続けるつもりです。 2017年5月には追加DLCを配信する予定です。さらに2017年後半には新作2タイトルを予定しています。Alawarが得意としてきたカジュアルでライトなゲームではないスタイルのゲームです。ぜひ遊んでいただき、ファンになってもらって、何かフィードバックをいただければ幸いです。

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