2007年カナダツアー取材記事再録①「日本の『愛』と欧米の『AI』」


2017年3月にカナダ投資局主催のメディアツアーでトロント、ケベックシティ、モントリオール、バンクーバーのデジタル産業を視察してきました。こちらはその時の取材記事2本となります。

映像教育の名門校がゲーム業界にも進出 ~カナダのデジタルコンテンツ産業最新レポート<1>~

国内外から優秀な人材を採用し教育する仕組み ~カナダのデジタルコンテンツ産業最新レポート<2>~

実は2007年に11月も同様のメディアツアーが行われ、自分にとって約9年4ヶ月ぶり2回目の視察となりました。その時にウェブで全5回の記事を発表しましたが、すでにリンク切れとなっています。そこで、こちらで再掲載することにしました。

なお当時のカナダゲーム産業の空気感は、こちらの記事【今は冬だがカナダが熱い。「カナダのデジタルコンテンツ最新動向報告会」レポートを掲載】にもよくまとめられています。

 

MIGS2007

カナダ大使館の招きで、モントリオール、トロント、バンクーバーのカナダ主要三都市のデジタルコンテンツ関連の企業など約20カ所を取材する機会を得た。5回に分け、そのポイントを探った。第1回は、ゲーム開発の根底に流れる価値観をスケッチした。

海外の大手ゲーム開発スタジオ誘致が進むモントリオール。地域企業のゲーム開発力の底上げを狙って開催しているのが「モントリオール・インターナショナル・ゲーム・サミット」だ。この基調講演で、日欧米のゲーム開発手法について論じられた。キーワードは「愛」と「AI」だ。

任天堂のゲーム開発者・小泉歓晃さんは、ニンテンドー64の「スーパーマリオ64」から、Wiiの「スーパーマリオギャラクシー」まで13年間の歴史で、さまざまな工夫を凝らしながら、一貫して3Dゲームにおける「遊びにくさ」を解消してきた過程を紹介した。消費者の反応を元に、細かい遊びにくさを取り除いて、ゲームソフトの完成度を高めていく姿勢だ。

これに対し、米エレクトロニック・アーツのクリス・ヘッカーさんは、「ストラクチャー(構造)とスタイル(様式)がテレビゲームの二大要素」と示しながら、「これはコンピューターと人間の関係と同じで、そのままでは交わらない」と論じた。その上で「両者をつなぐ要素はAI(人工知能)だ」とまとめた。

小泉さんの考え方は、個々の制作を通して総合的な開発プロセスを練り上げる手法だ。この手法では、丁寧なゲームができあがる反面、作り手の執念といった「愛」が求められ、時間がかかる。反対にヘッカーさんは、最初に中心となるエンジンやアルゴリズムを作り上げるもので、応用がききやすいかわりに、製品にアラが出る可能性が高い。

日本のゲーム開発現場では、「このゲームには作り手の愛が感じられる」などと、「愛」という言葉が良く用いられる。ただ「愛」には限りがない。逆に欧米の企業では、こうした擬人化した言い回しはないようで、上司の管理能力を疑われる恐れもあるという。

日本のゲーム業界が玩具やレジャー産業から発展したのに対して、欧米ではコンピューターサイエンスが基礎だ。日本と欧米のゲームデザイン論について、改めて整理する時期に来ているのかもしれない。(初出:まんたんウェブ2008年1月1日)