世界第2位の国土の広さを誇るが、人口が3000万人しかいないカナダでは、通信インフラの整備が課題だった。電話の発明で知られるグラハム・ベルが、初めて長距離電話の実験を行ったのもカナダだ。この“血”が受け継がれているためか、コンテンツ業界でも、テクノロジーに対するフットワークが軽い。
オンタリオ州トロントのクッキージャー・エンタテイメントは、児童向けテレビ番組制作会社の“老舗”で、最近ではインターネット・コンテンツにも力を入れている。06年にテレビ東京系で放映された「スパイダーライダーズ」も、同社原作のアニメだ。北米では、テレビ放映に加えて無料の対戦オンラインゲームサイトも立ち上げた。アニメとオンラインゲームを同時展開して話題性を集めると共に、コンテンツの“寿命”を延ばす戦略で、サイト開始時には100万人を超えるユーザー登録を集めて関係者を驚かせた。現在は第2弾「MAGI-NATION」を韓国のアニメスタジオと共同制作し、オンラインゲームとカードゲーム、さらには携帯ゲーム機へのマルチ展開も狙う。
ネルバナ・エンタープライゼスでは、アニメの制作現場を取材した。同社では伝統的な手描きアニメの制作から、2年前にフルデジタル体制に切り替えた。3Dアニメだけでなく、2DのアニメもCGで制作し、一話20分の番組をアニメーター4名のチームを中核に、4週間で仕上げている。統合CGアニメ制作ツールは、カナダ製だ。制作中の女性向けアニメ「ルビー・グルーム」は、パンクロックとカジュアルが融合、日本でもカートゥーンネットワークで放映されている。
映像制作を手がけるゼノファイル・メディアは、テレビドラマに加えて、ウェブや郵便、電話、イベントなど、複数のメディアを組み合わせて展開し、複合的なストーリー体験が味わえる「オルタナティブ・リアリティー・ゲーム」(ARG)と呼ばれる新ジャンルに乗りだした。ARGドラマの「リジェネシス・エクステンデッド・リアリティー・ゲーム」は、第2シーズンが国際エミー賞のベスト・インタラクティブ・プログラム部門を受賞。現在はディズニーと提携して制作したARGの新番組「Fallen」が全米で放映中だ。
カナダはハリウッドの映画産業と結びつきが強く、中でもトロントには多くの映画制作を請け負うスタジオや関連企業がある。こうした企業の中から、デジタル技術を用いて新しいコンテンツ展開を行う企業が出てきたことは興味深い。これら3社のような取り組みは、日本ではなかなか見られない。(初出:まんたんウェブ2008年1月3日)