2007年カナダツアー取材記事再録⑤「世界へ向けた日本の強み」


EAバンクーバー

テレビゲームには昔から、「デジタルびっくり箱」「びっくり箱以上の何か」という二つの考え方がある。前者の代表が「脳トレ」で、後者が「ファイナルファンタジー」だ。ファミコン発売以来、両者が互いに刺激を与えながら進化してきた。

ただし、両者の力関係は時代で変化してきた。PS2時代には、前者「デジタルびっくり箱」の良さが薄まって気軽に遊べるゲームが減り、ニンテンドーDSのヒットで復調したわけだ。逆に新世代機を迎えた今、日本のゲームメーカーにとっての課題は後者「びっくり箱以上の何か」だ。ゲームの大作化が進んだ結果、開発リスクが大きくなったのだ。

この対策は二つ。開発コストを下げるか、市場を広げるしかない。敏感に反応したのが欧米の企業で、教育水準が高く、人件費が割安で、さらに税の優遇措置などが受けられるカナダに投資した。米エレクトロニック・アーツは91年にバンクーバー、仏ユービーアイは97年にモントリオールで開発スタジオを設立し、カナダで開発して世界に売るシステムを作り上げた。カナダで本格的にゲーム産業が立ち上がったのも90年代後半で、PS2の存在がささやかれ始めたころだ。まさに、先を見越した戦略が実ったわけだ。

現在、日本では大作ゲームについて、欧米市場で売ることを念頭においた開発が主流になりつつある。だが、現地のユーザーの好みを最も良く知っているのは現地の開発者で、今後は海外開発も強化していく必要があるだろう。すでにコーエーとカプコンはトロントに開発スタジオを設置。コーエーはPS3とXbox360のタイトルを、カプコンは携帯電話向けのゲーム開発を進めて北米での販売強化を目指す。

海外向けのタイトルを選び、日本側の指揮で、現地の開発スタジオと共同開発する戦略もある。任天堂の3Dアクション「メトロイドプライム」シリーズがその例だ。同タイトルの開発は米レトロスタジオで、モントリオール国際ゲームサミットでも開発事例が議論された。レ社のマイケル・ケルバフCEO(最高執行責任者)は「2カ月ごとに任天堂からスタッフが訪れて、2週間ずつミーティングをして開発を続けた。任天堂側の細部に至るまでのこだわりは徹底していた」と語る。

最後に各地域の販売会社と、制作を担当する開発スタジオが共同でゲームの雛形を作り、それを各地域ごとに現地語化し、現地の嗜好に合うように細部を調整して販売する方法もある。ソニー・コンピュータエンタテインメントの、「ラチェット&クランク」シリーズは好例だ。PS3版では各国語版の情報が一枚のディスクに収められており、工程管理は複雑になるが、世界同時展開を狙うには必須となる。

ただ、「デジタルびっくり箱」を作るには、ゲームデザインやチューニングのノウハウが重要で、日本の開発者の方が向いている。体感ゲームの「Wiiスポーツ」や、ボールを雪だるまのように転がして大きくしていくアクションゲーム「塊魂」などの作品はその好例。欧米の開発者から高評価を受けている。もっとも、日本の開発者自身が、自身の強みを分析しきれていない面もあり、さらにゲーム開発の議論が必要だろう。

日本には多様なアイデアのゲームが生まれるユニークな土壌と、それを評価して支える市場があるため、実験的なゲーム開発を開発して、試すのに向いている。秋葉原はその代表格で、このような街は世界のどこにもない。安易な欧米思考に流されず、日本の強みを生かす手法を模索する必要があるだろう。(初出:まんたんウェブ2008年1月5日)