「黒川塾(四十七)」でeスポーツ関係者が現状と課題をディスカッション


丸川珠代とeスポーツ

マーケティングがテーマの国際会議「アドバタイジング・ウィーク・アジア」で5月29日、前夜祭イベント「オープニング・ガラ」が開催された。会場の六本木ヒルズでは丸川珠代/東京オリンピック・パラリンピック担当大臣が登壇し「スポーツには未来と世界を変える力がある。オリンピックはスポーツと共に文化の祭典。2020年の東京五輪では日本の文化を全世界に発信し、インバウンド増加につとめたい」とスピーチした。

その後、スペシャルイベントとしてサッカーゲーム「FIFAインタラクティブワールドカップ(FIWC)」によるエキシビジョンマッチが開催された。対戦したのは世界チャンピオンのモハマド”バーシャ”アルバーシャ選手と、東京ヴェルディeスポーツチームに所属するマイキー選手だ。試合はゴール前のパスミスにつけ込んだバーシャ選手が前半で先制。後半も髙い位置でのパスカットからカウンターでゴールを決め、2-0で世界チャンピオンの貫禄を見せつけた。

マイキー選手(左)とバーシャ選手(右)

丸川珠代/東京オリンピック・パラリンピック担当大臣

2022年アジア競技大会で正式種目に採用され、2018年大会でもデモンストレーション種目になるなど、国際的な注目度が増しているeスポーツ。今回のエキシビジョンマッチもこうした背景のもとに開催されたものだ。念のために補足すると、丸川氏のスピーチとエキシビジョンマッチは、まったく別の意図で開催された。しかし両者が続けて行われたことで、少なくともeスポーツ側にとっては大きな宣伝になったようだ。

業界関係者からゲームファンまで多くの来場者がみられた

選手ファーストは実現するか

このように日本でも徐々に注目を集めつつあるeスポーツ。もっとも実際には大きな課題があることも事実だ。実際、eスポーツの潜在的な可能性に注目する業界外の人々と、実際の選手との価値観のずれや温度差が、これまでにないほどに高まっている。こうした中、5月24日に開催された「黒川塾(四十七)」では、eスポーツとプロゲーマーの明日はどっちだ!?_2~今、現場で起こっていること~」と題して、関係者によるさまざまなディスカッションが行われた。

ゲスト登壇者はゲーミングチームDeToNator代表の江尻勝氏。一般社団法人日本eスポーツ協会事務局長、一般社団法人eスポーツ促進機構理事、eスポーツコミュニケーションズ合同会社代表の筧誠一郎氏。株式会社CyberZ執行役員RAGEプロデューサーの大友真吾氏。そして米EchoFox所属の日本初女性プロゲーマーで、株式会社忍ism取締役のチョコブランカ氏だ。司会は主催者である黒川文雄氏がつとめた。

左から黒川氏、江尻氏、筧氏、チョコブランカ氏、大友氏

はじめに筧氏は2022年アジア競技大会をめぐる現状について整理した。国際大会に日本人選手を派遣するには、日本でeスポーツを代表する唯一の団体が日本オリンピック委員会(JOC)に加盟する必要がある。一方で日本には現在、日本eスポーツ協会・e-Sports促進機構・日本プロeスポーツ連盟という主要3団体があり、各々が独自に活動を行っている。そのため3団体の協力を通して、近い将来に日本人選手が派遣できる状況を整備したいという。

江尻氏は女子サッカーの現状を例に出しつつ、選手自身の覚悟や取り組みの必要性について語った。なでしこジャパンで国際大会では注目を集めているが、国内のサッカーリーグでは選手自身がチケットを手売りしているのが現状だ。興業としてeスポーツを成立させるには観客動員数が必要で、そのためには選手自身が魅力的な存在になることが求められる。そのうえで「魅力的な選手が見たい、応援したい」という環境を整備していくことが必要だと述べた。

海外経験が長いチョコブランカ氏も「日本はまだシーンを作っている段階」だと指摘する。もっとも、海外のプレイヤーは金銭のためにゲームをプレイしているが、日本のプレイヤーは違う部分もあるのではと指摘し、「日本にあったやり方で盛り上げていきたい」と語った。忍ismが2015年に設立した配信拠点「スタジオスカイ」や、コミュニティイベントの「Tokyo Offline Party」もそのひとつだという。

同じく日本独自のeスポーツイベントを展開しているのが、大友氏が手がけるRAGEだ。エイベックスグループとの協業でエンタテインメント色の高いイベントを行いつつ、日本の観客が応援しやすい雰囲気作りを模索しているという。実際「ショーアップされた舞台に立つと、普通の若者の中にもプロ意識が芽生えてくる」と語った。今後も海外のeスポーツだけでなく、リアルスポーツの決勝戦なども含めて、さまざまな事例を研究中だとした。

議論はプロゲーマーのセカンドキャリアについても及んだ。大友氏はゲームを的確に解説できる実況者が少ない現状を指摘し、選手が一線を退いたあとも、プレイ動画のストリーマーや実況者としてのキャリアが築けるのではないかと指摘した。チョコブランカ氏は忍ismを起業したのは、そもそも自分のセカンドキャリアのためだったと説明。そのうえで選手のコーチ職をあげ、同社でも若手選手に加えてコーチの募集を開始したと述べた。

筧氏もプロ野球やJリーグをモデルに、地域に根ざした活動を広げていくことで産業化を進め、その中で吸収したいとした。eスポーツが産業として広がれば、自然に雇用が産まれてくるというわけだ。これに対して江尻氏は自社やパートナー企業に就職する例が多いとしつつも、セカンドキャリアを勝ち取れるのは実績を残した人材だけだと指摘。なによりも選手自身の自覚と努力が必要だと釘を刺した。

今回のイベントでキーワードとなったのは「選手ファースト」という考え方だ。そもそもeスポーツはリアルスポーツと同じく、トッププレイヤーがいなければ成立しない。その周囲にさまざまな「大人」がかかわり、ビジネスが成立する構造がある。選手をどのように育成・支援し、セカンドキャリアにつなげていくのか。そのためのグランドデザインが必要というわけだ。東京オリンピックと共に日本のeスポーツが成長していけるのか、この数年が正念場だといえそうだ。(小野憲史)