遊んで学べるゲームデザイン教材


専門学校で授業をしながら、次第に「ゲームを遊びながらゲームデザインが学べる教材があればいいのに……」と思うようになりました。待っていても誰も作ってくれそうにないので、これまで本を読んだり、取材を通して学んだりした知見をもとに、自分でUnity PlayGroundを用いていろいろと作って、授業で使ってみました。実行ファイルを公開しますので、よろしければご活用ください(UnityRoomに公開して記事内に埋め込み中です。PCでプレイしてください)

①ゲームはインタラクティブな体験である

(デジタル)ゲームはインタラクティブな体験である……。この意味を理解してもらうために、錯視を用いた簡単なデモを作ってみました。このデモには3つのモードが存在します。モード1では赤い四角形が自動的に回転します。モード2では右キーを押している間だけ、右側に回転します。モード3では左右キーを押すことで四角形が左右に回転します。ブラウザ上で見ているだけなら、すべて同じ映像体験ですが、実際に操作してみると、四角形の大きさはどのように変わって見えるでしょうか? それとも同じでしょうか?

②ゲームには目標と障害と手段がある

ゲーム作家の山本貴光氏はゲームの三要素に「目的」「障害」「手段」があると述べています(※)。この三要素をゲーム画面を見ただけで、プレイヤーに瞬間的に理解できるようにデザインすると、遊びやすいゲームになります。この意味を理解してもらうために作ったゲームが「SPACE RACE」です。モード1では〇△□といった記号的なグラフィックですが、モード2ではイラストを用いた具象的なグラフィックになっています。このようにゲームのグラフィックには美的な要素に加えて、「プレイヤーに遊び方を教える」=メカニクスの意味を伝える役割が存在します。

③ゲームは複数の刺激が重層的に折り重なっている

ゲームはメカニクスの集合体ですが、それだけではありません。グラフィック・サウンド・触覚など、さまざまな感覚を刺激する情報が重層的に折り重なっています。このとき、メカニクスが同じであれば情報の種類が多い方が、一般的におもしろさが増すと考えられます。この意味を理解してもらうために作ったゲームが「SPACE SHOOTER」です。Shooter1では記号的なグラフィックのみだったゲームが、Shooter2では具象的になり、Shooter3ではエフェクトが加わり、Shooter4ではサウンドが加わります。それぞれの段階でおもしろさがどのように変化するか確認してみてください。

④先の見通しが立つとゲームはおもしろくなる

ゲームを遊ぶ姿を観察すると、プレイヤーは画面の情報を瞬時に読み取りながら、より自分が有利に状況になるようにコントローラーを操作し、その結果ゲームの状況が変化して、画面上に表示され……といった、ユクスキュルの環世界にも似た情報の循環構造が見られます。このとき、状況がランダムで変化するよりも、ある程度先の見通しが立った方が、ゲームがおもしろくなると考えられます。このことを理解してもらうために作ったゲームが「MoveUp」です。Version1では次の安全地帯の場所が不明瞭ですが、Version2では次の安全地帯の場所の目星がつくようになっています。両方を遊び比べて体験の違いを体感してみてください。

⑤アバターとコントローラーは表裏一体

プレイヤーがゲームを遊ぶ姿を観察すると、「プレイヤーがコントローラーを操作する」「コントローラーの操作によってアバター(自機、プレイヤーキャラクター)が画面上で特定のアクションをする」という、ユーザーインターフェースの二重構造が見られます。このことはコントローラーとアバター形状の関連性の有無が、ゲームの遊びやすさに影響を与えることを意味しています。この意味を理解してもらうために作ったゲームが「Computer Space Clone DEMO」です。アーケードゲーム第一号の「COMPUTER SPACE」と同じメカニクスとキー配置のゲームをプレイし、改良版と遊び比べることで、両者の関係性について考えるきっかけとしています。

⑥アバターと世界は表裏一体

TV版『新世紀エヴァンゲリオン』の第25話・26話で寓話的に語られたように、現実世界は「自分」と「自分以外のすべて(人・モノ・空間など)」と、「両者の関係性」で構成されています。これはゲームも同じで、「アバター」と「世界」と「両者の関係性」に要素分解が可能です(ここからゲームは現実世界を抽象化・誇張化したものという仮説が導き出されます)。この意味を理解してもらうために作ったゲームが「Move to the Right」です。モード1とモード2でアバターの面積はほぼ同じですが、ゲームのおもしろさではモード2が勝っています。このことは「⑧メカニクスとレベルデザインは表裏一体」とも関係しています。

⑦コントローラーと世界は表裏一体

世の中にはモグラたたきやボードゲーム(そしてFPSやRTS)のように、アバターの存在しないゲームも存在します。その際に重要になるのがコントローラーと世界の関係性です(世界=大小さまざまなメカニクスで重層的に構築されたシステムだとも言い換えられるでしょう)。この意味は自分が身をもって理解することになりました。

はじめに作ったデモが上の動画です。画面上を跳び回るボールをマウスでクリックして消していき、全部消すまでの時間を競うゲームになっています。これをベースにスマートフォン向けに改良したのが下の動画「Touch Touch Balls!」です。最初のままではとてもゲームにならず、どんどんボールの数を減らしながら、大きくしていき、ついに5個になりました。これは画面とコントローラー(モニターかスマートフォンか/マウスクリックか指か)の違いに起因しています。当然ながら同じタッチデバイスでも、画面サイズによって最適なボールの大きさや数は変化します。「Touch Touch Balls!」はGoogle Playで公開中ですので、ぜひ遊び比べてみてください。

⑧メカニクスとレベルデザインは表裏一体

ゲームのコアメカニクスとレベルデザインは抜きがたい関係性があります。同じブロック崩しでも、ブロックを消したスコアを競うのか、ブロックをすべて消す時間を競うのか、特定のブロックを消す時間を競うのかで、求められるブロックの配置は変わっていきます。このゲームでは単純なブロック崩しを遊びながら、「ボールが一定の角度で跳ね返る」「ボールの反射角度がラケットの位置によって変わる」「スコア制からタイマー制に変わる」など、メカニクスを徐々に変化させていき、それによってレベルデザインが変わる様を体験していきます。

⑨ストレスループ

「オバケから追いかけられているパックマンがパワーエサを食べると一定時間無敵になり、逆にオバケを食べることができる」「弾幕の猛攻で絶体絶命な時、ボムを出すと弾幕が一掃されて敵全体にダメージが与えられる」など、多くのゲームにはプレイヤーにストレスを与えつつ、ストレスを解消させる仕組みが存在します。筆者はこの構造をストレスループと呼んでいます。そのうえで、このストレスと解消のバランスはプレイヤーのスキルによって変化します。この構造を体験してもらうことを目的に作ったゲームが「Stress loop」です。プレイヤーは爆弾の攻撃を避けながらスターを集めて、敵に反撃することができます。スターをいくつ集めると反撃できるかは、モードによって変わります。あなたはどのモードが一番おもしろいと感じるでしょうか?

⑩だんだん難しくしていく

「⑧メカニクスとレベルデザインは表裏一体」の応用編です。いきなり難しいステージを作るのではなく、複数のステージを作って、だんだん難しくしていきましょう。この時、一つひとつはシンプルな障害物でも、複数の障害物を組み合わせていくと、難易度が指数関数的に上昇していきます(ゲーム『CUPHEAD』は全編がこの応用でデザインされています)。また、ゲーム全体のボリューム(総ステージ数など)と、現在のステージ数を表示してあげて、あとどれくらいでクリアできるか示してあげるなども、プレイヤーのモチベーションを保つうえで有効です。

まだまだ、これ以外にもさまざまなゲームデザインのメソッドが存在します。おりをみて追加していこうと思います。ちなみに1つ作るのに慣れてくれば1-2時間でできますので(Unity PlayGroundは偉大・・・)、皆さんもぜひ作ってみては如何でしょうか?

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※「松戸市をコンテンツの街として盛り上げたい! 松戸市コンテンツ事業者連絡協議会の取り組みとは」より。なお、筆者は「目的」を「目標」と言い換えて、ゲームの三要素を「目標・障害・手段」としています。そのうえで、この三要素の上位構造に「目的」を設定していています。この時、「目標・障害・手段」はメカニクスを記述し、「目的」は「目標を達成することで得られる世界観・ストーリー的な存在」としています。

例:スーパーマリオブラザーズ
目的:クッパを倒してピーチ姫を救出する
目標:マリオをゴール地点に移動させる
障害:エネミーや地形(穴など)
手段:上下左右に移動したり、ジャンプしたりといったアクション

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