シリアスボードゲームジャム2021に参加しました(実践編)


理論編ではシリアスボードゲームジャムのデザインフレームワークに関するメモ書きを公開しました。続く実践編では、ジャムの二日間におけるチーム内での思考の変遷や、テストプレイの内容等について、紹介していきます。チームメンバーは4人で、ジャムは2021年9月11日・12日ともに、午後1時~5時半のスケジュールで行われました。

ゲームジャム開始前

前提条件として、本ゲームジャムでは事前に全体テーマ「食べることのジレンマ」に関する、オンライン・ビブリオバトル(5分間で自分の好きな本を紹介しあうイベント)がありました。参加者は、そこで紹介された本を読むなどして、どのようなゲームになりそうか、約3週間かけてイメージを膨らませていきました。ビブリオバトルで紹介された本は以下の8冊となります。

1:なぜふつうに食べられないのか:拒食と過食の文化人類学
2:ヘミングウェイ全短編1「二つの心臓の大きな川」
3:「共食」の社会史
4:ボクらはみんな生きてゆく!
5:生命式
6:宮沢賢治:存在の祭りの中へ
7:戦国小町苦労譚
8:戦争がつくった現代の食卓

個の中でチャンプ本(=一番イイネ!を集めた本)は『生命式』でした。自分も上げられた本の中から『ヘミングウェイ全短編1「二つの心臓の大きな川」』『ボクらはみんな生きてゆく!』『生命式』を読んでみました(他に『戦国小町苦労譚』もマンガ版を軽く読んでいました)。この時点では『ボクらはみんな生きてゆく!』で扱われていた害獣駆除の問題がゲームになりやすそうに感じられました。

一方でSlack上では摂食障害に関するテーマが、次第に盛りあがっていきました。「ダイエットがきっかけで摂食障害(拒食症、過食症)になる」「ダイエットから摂食障害に至るプロセスに、負のゲーミフィケーションが見られる」などは、そうした議論の代表的なものです。その過程でいくつかゲームのアイディアなども出ました。自分としても「ダイエット✕摂食障害」の組み合わせはキャッチーであり、おもしろそうに感じられました。

また、これとは別に自分の中で、以前から漠然とした問題意識がありました。それは、「シリアスゲームでは、プレイヤーがバランスをとってゲームを進めるゲームになりがちではないか」というものです。

例としてコロナ禍について考えてみます。新規感染者をゼロにするにはロックダウンが有効です。一方でロックダウンを続けると経済が停滞します。そのため感染対策と経済のバランスをとりつつ、さまざまな施策を進めることが求められます。

これを普通にゲーム化すると、プレイヤーはそれぞれの自治体の首長で、感染対策と経済のバランスをとりつつ、住民の支持を一番集めた人が勝ち、的な内容になりそうです。互いに競争するんだけど、それによって感染者が増えるor経済が停滞していって、一定の値を越えると全員が負け。だから互いに調整することが必要だけど、他を出し抜いて勝ちたい気持ちもあるので、ジレンマが生まれる・・・といった感じでしょうか。

たしかに、これはこれでおもしろそうですが、地球温暖化でも、エネルギー問題でも、生態系の問題でも、結局はバランスをとることが重要です。そのため同じようなメカニクスが適用できそうですが、そうなるとゲームに多様性がなくなります。また、バランスをとりながら遊ぶよりも、モノポリーのように「勝者総取り」みたいなゲームの方が、遊んでいておもしろいのも事実でしょう。

これが研修ゲームのように、「ゲームを通して最適解を学ぶ」「業務命令で強制的に遊ぶ」「一回しか遊ばないことが前提」「プレイ後に振り返りがある」などの要素があれば、逆に強みになりそうです。ゲームを攻略することが現実の社会問題の学びに繋がるからです。例として「管理職になって部下のメンタルヘルスを考慮しつつ、売上を伸ばしていくゲーム」などが考えられるでしょう。

ただ、エンタメ用途で明確な攻略法があると、すぐに飽きられてしまいます。ゲームバランスをとりつつ、何回も遊べることが前提になるため、デザインの方向性が異なるのです。ここをどのように考えるかが個人的なポイントでした。

ゲームジャム1日目~企画編

とまあ、このような流れがありましたので、ジャムは今回でシリアスボードゲームジャムの参加が3回目となるメンバーをファシリテーター役として、これまでのSlack上での議論を整理するところから始まりました。

まず「摂食障害」について各自が考えてきたことを箇条書きで書き出し、チーム間の問題意識やアイディアのすり合わせを行いました。「スコアリング(カロリー計算、体重確認)が拒食のトリガーになった」→「食欲のコントロール(制御)は可能か?」といった具合です。自分としても「食」は非常に身近なテーマなので、「害獣駆除」よりも関心を持ってもらいやすそうだと、次第に考えが変わっていきました。

こうした中、チームメンバー全員の問題意識として「理性と本能のジレンマ」や「自分がコントロールしているつもりで、実はコントロールできていない状態」などがキーワードとしてあがっていきました。特に後者については飲み過ぎ、食べ過ぎ、二日酔いや胃のもたれなど、誰もが身近なテーマにつなげられそうでした。そこから次第に「30代、独身、一人暮らしで、健康や食生活に漠然とした不安を感じている男女」が、このゲームを遊ぶことで、「食について正しい知識を深めていくようになる」というストーリーが浮かび上がっていきました。

ただ、「食について正しい知識を深めていく」といっても、そのためのメカニクスはさまざまです。食をテーマにしたクイズゲームなどは好例でしょう。ここでメンバーの一人から雑談を通して、その後のブレイクスルーにつながるアイディアが出ました。それは「最近、社内でシリアスボードゲームについて関心が高まっていて、理由の一つに『気軽に失敗できる』効果が期待されている」というものでした。

こんなふうに「気軽に失敗できる」ことをシリアスボードゲームのメリットに感じられている人がいるのであれば、我々のチームも「明るく失敗できる」「失敗が楽しめる」ゲームを作るのが良さそうです。つまり本作は「明るく失敗する行為を通して、食について正しい知識を深めていける」ゲームとなります。

では、「明るく失敗できるゲーム」には、どんなものがあるでしょうか。「黒ひげ危機一発」「ジェンガ」「ふくわらい」「お絵かきしりとり」などの例が出ました。これらに共通する要素として、「短時間で勝敗がつくこと」「カジュアルに遊べること」などがあげられました。

また、「みんなが経験したことがある失敗」をゲームに盛り込むと良さそうにも感じられました。そこで食に関する失敗談について上げていったところ、「飲み過ぎて吐く」「胃腸が弱いのに辛いものを食べてお腹を壊す」「バイキングや食べ放題で皿にとりすぎてしまう」「その日の体調が悪いのに気づかず、普段と同じだけ飲んで二日酔いになる」などがあがりました。いずれも「自分でコントロールしているつもりで、コントロールできていない」ことが原因で、ゲームのテーマにも即しているように感じられました。

ちなみに、こんなふうに思いがけず「摂食障害」でゲームのアイディアが膨らんだため、「害獣駆除」ゲームは没になりました。

タブーコード

ここまで話が進んだところで、メンバーの一人から「タブーコード」というゲームの紹介がありました。各自に設定されたNGワードを言わせるように、会話をしながら相手の発言を誘導していく、インディアンポーカーのような会話ゲームです。まさに「失敗が盛りあがる」ゲームであり、オンライン上でのプレイにも向いていて、カジュアルに楽しめそうです。ここから自分たちが作るゲームも、「ゲームを通して自分の体質や、食に関する特性について理解を深めていく」ゲームが良いのではないか、という話になりました。

具体的には各キャラクターに「好きな食べ物」「嫌いな食べ物」「アレルギーのように(自分では理解していないけれど)食べると体調を害するもの」が設定されており、ゲームプレイを通して、それらを次第に理解していくゲームとなります。これにより「食に対する理解が進む」という目標が、「食と体質について理解が進む(自分ではコントロールしているつもりで、コントロールできていないことがあることに気づく)」というように、より細分化が進むことになりました。

また、余談ですが河豚のように「下手をしたら死ぬとわかっていても、それでも食べてみたい食材」や、河豚の卵巣の糠漬け(塩漬け)のように、毒素を消失させたのちに珍味として食されている例がある(=命を賭けて食べてみたいものがある)ことも話題に上がりました。このように食は身近なテーマだからこそ、会話が弾むことがわかりました。正直「害獣駆除」だと、ここまで盛りあがらなかったと思います。

ただし、これらを真面目に作ると、遊ぶのがしんどいゲームになることや、医学的正確性に欠けるゲームになることが懸念されます。そこで明るく失敗できるゲームにするため、フレーバーを「ずらず」ことになりました。設定としてあがったのは「動物」「虫」「モンスター」「原始人」などです。そこから、いちばんネタが広がりそうな「宇宙人」になりました。

また、ここからアコムの「地球寄ってく?」「ラララむじんくん、ラララむじんくん・・・♪」というCMに話が飛び、最終的に「一度は行ってみたいグルメ惑星、地球。ただし食材によっては免疫抗体とバッティングして、体調を崩してしまうリスクも。自分の特性を理解しつつ、地球のグルメ料理を満喫できるか?」といったストーリーが生まれました。

ゲームジャム2日目~プレイテスト編

ここまで進んだところで1日目の作業は終了。明日に向けての宿題として「カードの具体例を考える(料理カード・宇宙人カードなど)」「勝敗の決め方を考える」「参考になるゲームを探す」が上げられました。一方で未解決の問題として「インディアンポーカー式のゲームはビデオチャットに向かない(自分もカードの内容が見えてしまう)」点がありました。

ここで(自分はまったくイメージできていなかったのですが)、二日目に繋がる非常に重要な発言がメンバーの一人からありました。「Googleスプレッドシートで宇宙人や食材のカード情報を入力して数式を組み、かるくテストプレイができるようにしてきます」というものです。そしてその発言どおり、翌日オンラインで集まると、このシステムができていました。

試作されたスプレッドシート
  • 宇宙人と「好きなもの」「嫌いなもの」「アレルゲン(抗体)」のリストが入力されていて、数字を選ぶと組み合わせが変化する。
  • それぞれの宇宙人の情報はタブで分けられていて、自分の特性は見ることができず、他の宇宙人の特性は見られる。
  • ゲームの判定とスコア入力は手入力(アナログ)

このように設定ことで、スプレッドシートをブラウザ上で共有しながら、ゲームを進めることが可能になります(画像で黒く塗られているエリアが自分の宇宙人の特性です)。プレイヤーが各自のターンで任意に食べたい料理(食材)を選び、他のプレイヤーに相談します。他のプレイヤーは嘘をつかないように気を付けながら、相手をはめる(=アレルゲンを含む食材を摂取するように誘導する)という流れです。これを何回か繰り返し、順位を決めるというわけです。

さっそく、このシートをもちいてテストプレイをしてみたところ、ふわっとした面白さの種があり、調整次第でさらに面白くなりそうに感じられました。そして、そこには「会話で進めること」「食事(食材)という身近な題材であること」などの理由があるように感じられました。特に「ラーメン」「カレーライス」といった具体的な料理名ではなく、「冷たい料理」「鶏肉」から「棒々鶏?」といった具合に、シートには調理法や食材しか書かれていないにもかかわらず、そこからいろいろな会話が広がっていく点が、興味深く感じられました。

また、ゲームを遊びながら「外国で現地の料理を前にして、味がまったく想像つかずに、おそるおそる口にした」などの体験が思い出されました。使われている食材や調理法から、おおよその味を推測して口にするものの、まったく予想と違っていた/想定以上に美味しかった・不味かった、などです。逆に現地で生水を飲んでお腹を壊したりした人もいるのではないでしょうか。こうした想い出と、本ゲームのプレイ体験が、なにかつながりそうな予感がしました。

一方で「順位の決め方がわかりにくい」「好きな食材、嫌いな食材の意味が乏しい」「先手が有利すぎる」などの改善ポイントもあげられました。そこから「好きな食材を選択したら2ポイント、嫌いな食材ならマイナス1ポイント、アレルゲンならマイナス3ポイントといった具合に、得点制にする」「ターンごとに順番が1人ずつずれていく」「3ターンで終わりだが、望むプレイヤーがいたら、そのプレイヤーだけ、もう1ターン続けてもいい」などのルールが加えられていきました。

他に宇宙人の特性や、好きなもの、嫌いなもの、アレルゲンなどの名称に調整が加えられました。最後にゲームのタイトルを決める必要があり、少し時間がかかりましたが、ゲームのコンセプトやプレイフィールから「自分探しのグルメ宇宙人~まだ見ぬ味を求めて~」に決定しました。

ゲームジャムを終えて~ふりかえり

このように、まだまだ本作はプロトタイプ(そもそも実際のカードを使って遊んでいないので、厳密にはプロトタイプですらない)に留まっていますが、おもしろくなりそうな可能性が感じられるものになりました。そのため、早くも継続開発を進めていくことになっています。自分も勤務校での入試対応などで、週末といえども、なかなか時間がとれないシーズンに入っていくのですが(また、メンバーが全国に散らばっているので、なかなか対面でテストプレイができないのですが)、できる限り協力していきたいと思っています。

一方で今回、約10時間という短時間でこれだけのものが完成した勝因として、「早い段階で『失敗して楽しいゲーム』という、体験の核となるキーワードが決まったこと」「Googleスプレッドシートを用いたテストプレイ環境が2日目の最初にできていたこと。それによって、1日目は企画会議、2日目をテストプレイにフルに使えたこと」「アナログゲームを作ったことがある/過去のシリアスボードゲームジャムに参加したことがある/ふだんからアナログゲームに親しんでいるなど、メンバーでアナログゲームのメカニクスに関する知識が豊富だったこと」などがあげられそうです。

また、個人的にも「シリアスボードゲームのデザインフレームワークが、そこそこ上手く機能したこと」「あらかじめ設定されたジレンマの中で、バランスをとる以外のゲームが作れたこと」という収穫がありました。特に想定されるペルソナと、ゲームを通して提供したい体験がしっかりと決まっていたので、メカニクスの選定がぶれずに進んだ点が大きかったように感じられました。総じて参加したメンバーがそれぞれ、自分の持ち味を十二分に発揮できたジャムだったと言えるでしょう。

そのうえで本作とは離れますが、Googleスプレッドシートを用いた会話ゲームの可能性についても、いろいろと感じさせられました。Googleスプレッドシートでデータを共有することで、ちょっとしたデータベースのように活用できますし、マクロや数式を活用することで、より複雑な計算が可能です。TPRGのオンラインセッションでキャラクターシートを共有し、バトルの度にヒットポイントなどが変動する、などの活用も可能でしょう。今回のようにビデオチャットと組み合わせれば、いろいろな会話ゲームのデータ管理に使えそうです。

他に軽く調べた程度ですが、UnityとGoogleスプレッドシートを組み合わせて使用し、Unity側からGoogleスプレッドシートの値をとってきて、ゲーム内で活用する、といった使い方もできるようです。オンラインボードゲームなどを開発する時、データベースをゼロから作るのは大変ですが、Google Application Sctiptsと組み合わせるなどすれば、Googleスプレッドシートを簡易データベースとして活用できるかもしれません。

ともあれチームメンバーの皆様、二日間の開発お疲れさまでした。また、運営スタッフの皆様、たいへん濃いシリアスボードゲームジャムを運営いただき、ありがとうございました。そのうえで改めて、アナログゲームジャムのメリットについて考えさせられました。ゲーム業界志望の学生であれば、企画専攻に限らず、(コロナ禍がおさまらないと難しい点もありますが)アナログゲームジャムを体験してみるといいかなと思います。


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