ミニゲームで学ぶMDAフレームワーク


東京クールジャパンの今年度の授業がすべて終わりました。後期は全12回だと思っていたら、第13回目がありまして、シラバスも12回で考えていたため、何をしようか迷いました。そこで数年前に作って、そのままにしておいたミニゲームを引っ張り出してきて改造し、MDAフレームワークの演習と絡めて実施してみました。オンライン授業でもやりやすいのでオススメです。

事前に宿題として下記ゲームを遊んでもらいます。対戦ゲームなので家族や友達と遊んでもらうのがいいと思います。じっくり分析するには一人で遊ぶ方が良いかもしれません。2年前に教室で学生に遊ばせたときは、結構もりあがってしまって、考察があまり深まりませんでした。善し悪しですね・・・

そのうえで授業ではまず、「ゲームを遊んだ感想」と「改善案」について尋ねます。コロナ禍でオンライン授業なので、Googleフォームによるアンケート形式で尋ねました。10分くらいで数十個もの改善案を提示してくれました。

ゲームの感想(1:つまらない ~ 5:おもしろい)
アンケート回答で寄せられた改善案(一部)

ただ、こんな風に改善案がたくさん出てくるのは良いんですが、問題はこれらを、どんなふうに絞るかなんですよね。時間と予算があれば全部やればいいと思うんですが、現実的ではありませんし、改善案同士が矛盾してしまったりする。そこで重要なのがパレートの法則ではありませんが、2割の改善で8割の効果を出すこと。時間と予算がない時は、2割のうちの2割、そしてまたその2割・・・というふうに、ポイントとなる改善案を正しく選び出すことが重要になります。

そこで「プレイヤーの感情の変化」に注目するといいですよ、と説明します。中でも重要なのは「感情が冷める」「モチベーションが低下する」瞬間です。人間不思議なもので「おもしろさ」のツボは人それぞれでも、「つまらなさ」のツボは似通っているんですね。それを客観的に指摘して、改善するだけで、ずいぶんゲームの完成度が上がるというわけです。

それでは本ミニゲームで、プレイヤーの感情が冷める瞬間はどこでしょうか? 第一に上げられるのが「引き分けで終わった時」です。特にこのミニゲームでは、12個のアイテムをすべて回収しなければゲームが終わらないので、アイテムを互いに取ったり、取られたりと、良い感じで競り合っていても、最後に片方が2個連続でアイテムをとらなければ勝てません。裏を返せば「最後の1個を取った方が勝ち」にするほうが、ぐっと対戦がもりあがりそうですよね。アンケートでも「アイテムを奇数にする」という改善案がいくつか見られました。

ただし、これだけでは根本的な解決案になりません。なぜなら、片方が先にアイテムを6個取ってしまった場合、もう片方が逆転できる要素がないからです。仮にアイテムを11個と奇数にしても、全部のアイテムを回収しない限りゲームが終わらないルールなので、このままでは消化試合になってしまうんですよね。ここをなんとかしなければいけません。では、どんなゲームメカニクスの追加をすれば求められるのでしょうか? 授業では時間がなかったので、やりませんでしたが、ここで第2回目のアンケートを挟んでもいいですね。

当たり前の話ですが、求められる回答は一つではありません。しかし、こうした指針があるだけで、アイディアの絞り込みがずいぶんと楽になります。そのうえで、できれば実装が楽な方が良いですよね。「最後まで双方のモチベーションが保ち、実装が楽」な例として、こちらで考えておいたのが「プレイヤー同士がぶつかると、それまでのアイテム獲得数がリセットされる」というものです。そのうえで、実装ができるだけ楽になるように、プレイヤー同士がぶつかると、ゲームがリセットされるようにしました。これなら、シーンファイルを呼び出すだけで済むので、短時間で実装できます。

ここまで説明した上で、ミニゲームのその2を遊んでもらいました。2つのモードがあり、モード1ではアイテム数を11個にへらしただけ。モード2ではプレイヤー同士がぶつかると、ゲームがリセットされるメカニクスが加わっています。両者を遊び比べて、プレイヤーの感情がどのように変化していくか、体験してもらいます。この改善で、「リードしている側は、相手から逃げながら残りのアイテムを回収」「リードされている側は、相手にぶつかってゲームをリセットさせようとする」というふうに、立場に応じて方針が変化することを理解してもらうことが狙いです。その結果、最後まで白熱したプレイが続くというわけです。

ここまで体感してもらった上で、満を持してMDAフレームワークの説明です。ゲームをメカニクス、ダイナミクス、エステティクスの3要素で分析するもので、ゲームの分析や改善などを行う上で有効です。図を見れば分かるように、この3要素は互いに連動しています。そのうえで、MDAフレームワークが使いこなせるようになると、エステティクスから逆算してメカニクスが発案できるようになります。ベテランのゲーム開発者であれば、当たり前の話だと思いますが、なかなか学生だとそこまで理解がいたらない。そのために、なにか思考の取っかかりになるものがあるといい。MDAフレームワークはそのひとつです。ただ、頭だけで考えてもなかなか理解が深まらないので、遊びながら理解できるミニゲームがあった方が良いだろうなと思い、このような演習に仕立ててみました。

ちなみに本演習ではシンプルに「モチベーションが継続する」ことを改善の目的としましたが、ゲームを遊んで受ける感情はそれだけではありません。ひとことで「おもしろい」といっても、そこにはさまざまなおもしろさがあります。ゲームを遊んで泣いたり、笑ったり、ハラハラしたり、ドキドキしたり、グッときたり、感動したり、やったー!と喜んだり・・・そうした感情は特定のメカニクスによって、特定のダイナミクスすなわちプレイヤーの体験によって、間接的に創出されます。そんなふうに「プレイヤーに特定の行動をさせて、特定の感情を導き出すためのメカニクスを考案すること」が、ゲームデザインのキモになりそうです。ゲーム専門学校の企画コースでは良く「ゲームを分析的に遊ぼう」などと言われますが、本演習が何か役立てられれば良いなと思っています。

授業ではこの後、復習も兼ねて「MDAフレームワークを用いたゲームデザインワークショップ」を、ちょこっと改造して実施しました。だいたい90分でミニゲームを用いた演習、次の90分でMDAフレームワーク演習をやると、良いと思います。ちなみに本演習を行う上でのTipsとして、「ゲームのもっとも重要なメカニクス(コアメカニクス)」に注目させるという点があります。現在販売されている多くのゲームは、さまざまな粒度をもつ、大量のメカニクスの組み合わせで構成されているため、MDAフレームワークでは分析しきれないんですね。この点を注意して授業を進められると良いと思います。演習①②で要領がつかめたのか、演習③の新規ゲーム考案では、みな小粒でもピリリと辛いミニゲームのアイディアを考案してくれました。カジュアルゲームが流行している中、時流に乗った演習になったかもしれません。

もう一つ演習を通して気になったのが、テーマに「アクションゲーム」「RPG」などと、ゲームのジャンルを書いてしまう学生が多いことがありました。そこで演習中に「テーマにはジャンルではなく、プレイヤーの具体的なアクションが想像できるようなキーワードを書きましょう。テーマが『戦場』なら「銃を撃つ」「隠れる」、テーマが『農場』なら「作物を植える」「害獣を追い払う」といった具合です」などと、補足の説明を行いました。このあたりも注意されると、よりよい演習になるかと思われます。

PS:こんなふうにルールを作ると間接的に人が誘導されるという話は、「消極性デザイン宣言 ―消極的な人よ、声を上げよ。……いや、上げなくてよい。」に詳しいので、よろしければどうぞ。似たような内容で、ゲーム開発者が書いた書籍として「ハンバーガーを待つ3分間の値段―ゲームクリエーターの発想術」もあります。


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