シリアスボードゲームジャム2021に参加しました(理論編)


2021年9月11日~12日にオンライン上で開催されたシリアスボードゲームジャムに参加しまして、カードゲームのプロトタイプっぽいものをGoogleスプレッドシートで作りました。

ジャムの全体テーマは「食べることのジレンマ」で、そこから転じてアレルギーをはじめ、プレイ後に「食と体質」について意識が向かうようなカードゲームになりました。ただ、オンラインジャムだと実際にカードを作ってやりとりするわけにはいかないので、暫定的にGoogleスプレッドシートを活用した次第です。

もっとも、これはこれでおもしろい経験でした。「Googleスプレッドシートを活用すれば、もっといろいろな会話ゲームが手軽に作れるのでは?」と感じています。

また、今回のジャムは事前にオンライン上でジャムのテーマに即したビブリオバトルがあったり、シリアスボードゲームのデザイン手法や関連資料の集め方に関するレクチャーがあったり、Slack上でチーム会議を行う期間が比較的長く(約3週間)設定されていたり、シリアスボードゲームのデザイナーや図書館の司書さんが運営に参加されたりと、さまざまな工夫がされていました。

そこで自分もシリアスボードゲームのデザインフレームワークについて、あらためて考える機会がありまして、文章にまとめたものを投稿しました。内容を少々手直ししたものが下記となります。

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議論やアイディア出しが活発になってきて、ありがとうございます。

議論の整理も兼ねて、自分が学校で教えているゲームの企画の立て方フレームワークについて共有させていただきます。

ビデオゲームの企画に使用しているものを、シリアスボードゲームむけにアレンジしてみました。

例として摂食障害のゲームをとりあげます。害獣駆除のゲームについても適時、読み替えていただければ幸いです(注:これまでのチーム内における議論で、摂食障害と害獣駆除がゲームにしやすそうだ、という流れになっていました)。

企画準備パート

1:ゲームの想定されるプレイヤー像(=ペルソナ)を定義します。

一口に摂食障害のシリアスボードゲームといっても、ざっくりと下記が考えられます。それぞれに適したゲームは異なります。

A:摂食障害で苦しんでいる人
B:摂食障害の関係者(肉親、医者、カウンセラー、施設の人など)
C:摂食障害と直接関係のない人

2:自分たちが作るゲームを遊んで、ペルソナにどのような行動変容を促したいかについて定義します。

プレイ後の行動変容について最初から考えて、デザインに落とし込む点がポイントです。ここがエンタメ目的のゲームとシリアス(ボード)ゲームの違いになります。

A:摂食障害で苦しんでいる人なら、治療の一環に資することでしょうか?
B:摂食障害の関係者であれば、摂食障害の方の疑似体験を通して、より理解が深まったり、相手に対して正しい対応が取れるようになることかもしれません
C:摂食障害の方と直接関係のない人であれば、摂食障害という病気の存在について知ることかもしれません

3:自分たちが作るゲームをペルソナが遊ぶ理由について考えます。

「作ったら遊んでくれるだろう」は作り手の傲慢なので、ここも決めておきます。理想論でかまいません。

A:摂食障害で苦しんでいる人なら、医者や施設で勧められて、または治療の一環として遊ぶように指示されるかもしれません
B:摂食障害の関係者であれば、研修の一環で遊ぶかもしれません。
C:摂食障害と直接関係のない人であれば、気晴らしの一つかもしれません。

4:自分たちが作るゲームの想定プレイ時間や、プレイ頻度について考えます。

プレイ時間と頻度によって具体的に作るゲームのイメージが固まっていきます。

A:摂食障害で苦しんでいる人なら、通院のたび(1週間に1回?)に、1~2時間程度かもしれません。
B:摂食障害の関係者なら、一生に一度(研修であれば)、半日かけて遊ぶかもしれません。
C:摂食障害と直接関係のない人であれば、飽きるまで何度も遊んでくれるかもしれません。1回のプレイ時間は15~30分程度かもしれません。ただしA、Bと違って強制力が無いため、つまらなければ遊ばれない(それどころか作り手が批判される)かもしれません。

5:1から4を整理して文章にします。

その際に、次のフォーマットをふまえて、行動変容を核としたストーリーとして整理します。

「これは〇〇むけのゲームです。○○は✕✕の理由でこのゲームを△△のように遊びます。このゲームを遊ぶことで、○○は□□の行動をとるようになります」

A:このゲームは摂食障害で苦しんでいる人むけのゲームです。摂食障害で苦しんでいる人は、医師からの勧めで、毎週~毎月の通院のたびに1~2時間程度、このゲームを遊びます。摂食障害に苦しんでいる人はこのゲームを遊ぶことで、摂食障害に対して真摯に向き合い、回復のための具体的なアクションをとるようになります。

B:このゲームは摂食障害を肉親に持つ人のためのゲームです。摂食障害の肉親は、施設が主催する教育システムの一環として、半日かけてこのゲームを遊びます。摂食障害の肉親は、このゲームを遊ぶことで、摂食障害の苦しみの理解が進むとともに、相手に対してより適切な対応が取れるようになります。

C:このゲームは摂食障害と直接関係のない人のためのゲームです。1回のプレイ時間は15~30分程度です。このゲームを遊ぶことで、プレイヤーは摂食障害という病気の存在について理解し、間接的な支援のための行動をおこすことに対して、考えを巡らすようになります。

ここからわかるように、1から4は互いに関連性があります。1から4をつなげたとき、意味の通る文章にしなければなりません。たとえば摂食障害で苦しんでいる人は、摂食障害について理解を深めるためのゲームをわざわざ遊ぶことはないでしょう。摂食障害と関係ない人は、摂食障害の治療法について理解を深めたいとは思わないはずです。摂食障害の関係者が期待することは、摂食障害の人との向き合い方について理解を深めることで、摂食障害に関するゲームを気晴らしで遊びたいとは思わないでしょう。

また、研修用のゲームであれば、1生に1回しか遊ばないかもしれません。その場合は、ある程度プレイ時間がかかっても良いでしょうし、ゲームバランスが多少とれてなくても問題ないかもしれません。その一方でゲーム終了後にファシリテーターのもとで振り返りの時間をとる必要があるかもしれません。一方で気晴らしのために遊ぶゲームであれば、遊んで「楽しい」「また遊びたい」と思ってもらえる必要があります。

他に、1から4はビジネスモデルに関係があります。A~Cで一番数が多いのはCです。もしゲームマーケットでこのゲームを販売するなら、摂食障害の人をターゲットにするべきではないでしょう(ターゲットが限定されすぎるからです)。ただし、Cをターゲットにするなら、なぜさまざまな気晴らしの手段がある中で、Cが自分たちが作るゲームを選択するのか、その理由や導線、フックになるようなものを考えておく必要があります。

逆にAやBにむけたゲームを作るのであれば、既存の方法(治療や研修など)に対して、自分たちが作るゲームが優れている点がなにか、考える必要があります。

もちろん、今回作るゲームはシリアスボードゲームジャムむけのゲームなので、販売する、しないは別の話です。しかし、企画会議で1から4について議論して、チーム内で共通理解を固める必要があります。これらの要素がふわっとしたままで開発を進めていくと、最終的に「よくあるゲームメカニクスで、とってつけたような目的のゲームが完成し、制作チーム以外は誰も遊ばない」ものになりがちだからです。

企画実践パート

1から5が固まったら、いよいよゲームのフレーバーとメカニクスについて考えていきます。

もっとも、フレーバーやメカニクスから考え始めてもかまいません。要は最終的に「おもしろくて、ためになる」ゲームが出来れば良いわけです。ただ、それはそうなんですけど、フレーバーやメカニクスから企画会議をしていくと、「なぜ、そのフレーバーやメカニクスを選ぶのか」について、取捨選択が難しくなるように思います(経験則です)。また、すごく画期的でおもしろいメカニクスが考案できたにもかかわらず、本来のシリアス用途と乖離してしまう、といったことが起こりえます。

一方で1から5がしっかり決まっていれば、フレーバーとメカニクスは自然に決まっていきます。フレーバーはペルソナをとりまく環境が相当するでしょう。Aであれば患者の精神世界かもしれません。Bであれば自分と患者の関係性がフレーバーになるでしょう。Cの場合は一工夫が必要です。摂食障害の苦しみやジレンマについて勉強したいと思う人は少ないと思われるからです。そのためフレーバーの工夫を通して、ペルソナにテーマ(摂食障害)について関心を持ってもらうためのきっかけ作りが必要になります。

※よくある間違いが、シリアス要素をおしだすあまり、「押しつけがましい」ゲームにしてしまうことです。逆にテーマとして設定されたシリアス要素に追い風がふくこともあります。今ならSDGsや障害者スポーツなどでしょうか・・・

ここで、しばしば使われるテクニックが「ずらし」です。一見するとまったく違うフレーバーのように見えて、よくよく考えてみると摂食障害をテーマにしていた、といった具合にほのめかす、というやり方です。分かる人にだけ分かってもらう、またはマニュアルの最後に「実は・・・」といった具合に書いておく、という手法だともいえます。

ここでは「ずらし」の例として、アクションRPG「リンダキューブ」の例を引用します。リンダキューブの舞台は終末期を迎えた惑星です。主人公は惑星脱出用の宇宙船の乗組員で、ゲームの目的は種の保存のために地上の動物を一つがいずつ収拾することです。

もっとも、本作のモチーフはアダルトビデオの強姦ものでした。強姦ものはアダルトビデオでニッチな需要があります。強姦をモチーフにした家庭用ゲームを作れば、大ヒットはしないものの、固い需要が見込めると考えた制作者は、強姦→狩猟→捕獲とアイディアをずらしていき、最終的に「惑星の寿命が尽きる前に動物を捕獲して脱出する」という目的を設定されたそうです。

摂食障害をテーマにしたシリアスボードゲームを一般ユーザー(=ゲームマーケットの来場者層)むけに作る場合でも、こうした「ずらし」のテクニックが有効かもしれません。

最後にメカニクスです。メカニクスについては、フレーバーとの関係性をふまえつつ、ペルソナに期待したい行動変容との合わせ技で考えます。望ましい行動変容をゲーム内でとれば、ゲームで有利になる/行動変容をとらなければゲーム内で不利になる、といった具合です。その上でゲームに勝つ=望ましい行動変容をとることが、現実の社会課題の解決につながることについて、思いを巡らせてもらえるようにデザインする、ということが王道になるかと思います。

また、大半のゲームは手段と目的の関係性で記述可能です。「牌をそろえて決められた役を作るゲーム(麻雀)」「相手のカードを引いて同じ数字のペアを揃えて手札を減らしていき、手札をゼロにするゲーム(ババ抜き)」などです。これを一般化すると「○○を××して△△を□□するゲーム」となります。メカニクスを決めるときは、この書式を活用すると便利です(注:神奈川工科大学の中村隆之先生が提唱されているEMSフレームワークです)

最後にゲームデザインには、ルールを組み合わせて世界を作り、プレイヤーに特定の行動をとるように間接的に誘導していく、という側面があります。このとき、現実よりもゲームの世界はシンプルで、かつダイナミックなものになります。ゲーム(特にアナログゲーム)は現実よりも抽象化されたものにならざるを得ません。そのうえで、ゲームは現実よりも派手であることが望まれます。いわばゲームは劇画化された現実だともいえます。

一方でこのことが、シリアスゲームと摩擦を生むことがあります。摂食障害はシリアスな現象です。そこで実際に苦しまれている方や、関係者が大勢います。その一方で摂食障害をテーマにしたシリアスゲームを作ることは、摂食障害で苦しんでいる人や、その関係者をとりまく世界を、抽象化・誇張化する行為です。そのため対象に対する深い理解がなければ、当事者の気分を害するような内容のゲームを作ってしまうことになりかねません。

こうした状況を回避するために、シリアス(ボード)ゲームでは通常、専門家や当事者の人にヒアリングしたり、レクチャーを受けたり、制作チームに混じってもらって、一緒に作ったり、というプロセスをふみます。今回のシリアスボードゲームジャムでいえば、図書館の司書の方にサポートしてもらいながら、資料について当たる、といった行為がそれに当たるかと思われます。どういった内容のゲームを作ることになるか、これから議論を深めていくことになるかと思われますが、ゲーム作りを通して対象の理解が深まるようなものになればいいなと思います。

フレーバーとメカニクスに関する補足

その後、「フレーバーとは何か」についてチームメンバーから質問がありましたので、下記コメントを追加しました。

フレーバーはアナログゲームの専門用語で、ざっくりと「世界観や背景ストーリー」の意味合いで使われます。

アナログゲームはルールがプレイヤーにむき出しになっていますが、同じルールでも世界観や雰囲気が違うと差別化要因になるので、ルール(ないしメカニクス)の味付けという意味あいで、フレーバーという用語が生まれたのだと思います。

※同じ囲碁でも、黒と白の碁石を男子と女子のアイコンに変えると、男子VS女子の放課後遊び場占有競争みたいになります。

また、フレーバーとメカニクスには相互関係があります。良く引用される例として、TRPGのバトルシステムがあります。

1:西洋ファンタジー風のバトルなら「キャラクターの技術点+6面体ダイス2個の合計値が相手の防御力を上回ったら攻撃成功」などにすると、甲冑で覆われた騎士が剣やメイスで互いに殴りあうイメージになります。

2:時代劇の殺陣なら「キャラクターの攻撃成功度以下の目を%ダイス(10面体ダイス2個を振って、片方を10の桁、片方を1の桁)で出すと攻撃成功、ただし防御側が回避成功度以下の目を%ダイスで出すと回避成功」などにすると、それっぽくなります。

3:スター・ウォーズのTRPGでは、攻撃値と同じだけダイスを振って、1の目が出た個数分、相手にダメージを与える、などのメカニクスを採用することで、ライトセイバーのチャンバラやレーザー銃の撃ち合いを表現していた・・・ように記憶しています。

※いずれも上げている例が古いんですが、これは自分が過去30年くらい、ほとんどアナログゲームを遊んでいないことが原因です。

でもって実際のジャムでは、シリアスボードゲームジャムに連続参加された方がいらっしゃったので、その方のファシリテーションで進みました。ほぼ、この流れに沿って制作が進んだように思います。そちらの模様も「実践編」として別記事にしてみたいと思います。


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