なぜゲームライターはゲームメディア以外で仕事をするべきなのか


突然ですが6月23日に「現役ライターによるライターのためのステップアップする取材術講座」というセミナーに登壇させていただくことになりました。紹介文を見ればわかるように、お話しする内容は過去の本コミュニティで話した内容の抜粋となります(編集者とライターの違い、写真撮影、海外取材など)。本セミナーではライターの仕事を「情報を整理して文章で伝える仕事」と定義した上で、そこからステップアップしていくための自分なりの方法論や知見について、具体例を示しつつお話しします。参加者はゲームライターではありませんので、より一般的な内容になりますが、本質は変わりません。逆に他のジャンルのライターさんと交流する機会にもなりますので、ぜひご参加いただければ幸いです。

その上で露払いとして、前々からゲームメディア内では良く言われながら、最近ではあまり聞かれなくなった事柄について、改めてここで書いておきます。それは「ゲームライターはゲームメディアだけで仕事をしてはいけない。ゲームメディア以外(一般誌)で仕事をするべき」というものです。追記すると「ゲームメディアは数ある出版媒体の中でも最底辺の存在である(少なくとも紙の時代は)」という事実です。だからこそゲームライターは早く最底辺から脱出して、上をめざして切磋琢磨しなくてはいけないというわけです。もっともWebメディアの時代になって、両者の差異がどんどんなくなってきた(正確には一般メディアのクオリティがどんどん下がってきた)ため、一概には言えなくなってきましたが・・・。

ともあれ、フリーランスのライターは「より付加価値の高いメディアで仕事ができるようになるべき」という事実は変わらないと思います。

それでは、一つずつ理由を解説していきましょう。まず「なぜゲームメディアは最底辺だったか」。理由は簡単で、扱う商材の商品力が非常に高かった(今でも高い)からです。「ドラクエ」「FF」「ポケモン」「マリオ」それから新型ゲーム機といった情報は多くの読者の注目を集める「商材」です。特にゲームメディアでは、良くも悪くも読者がそれなりにゲームに対するリテラシーが高いため、メーカーのリリースを丸写ししたような文章であっても(時には半分、日本語になっていなくても)、情報が他より早ければ(そして情報量が多ければ)それだけ高い商品価値を持ちました(これは今でも同じです)。多少内容が間違っていても、メーカー校正が必須の世界でしたから(これも同じ)、それなりに読める文章になって校正が戻され、編集者や校閲者の赤字が入って、最終的に出版されました。

しかもゲームメディアは1980年代後半に急速に成長したため、当初は文字通り書き手がいなかったんです。そのためゲームの上手い大学生のアルバイトが大量に動員され、原稿用紙のマス目を埋める時代が長く続きました。さらに、そんな半分アマチュアのライターが書いた雑誌や攻略本がバカ売れしたんですね。象徴的な事件が徳間書店の「スーパーマリオブラザーズ完全攻略本」で、1985年と1986年の2年連続で年間ベストセラー1位に輝きました。この記録は今もなお破られていません。当然ライター側もけっこうな収入になりました。これを見て多くの出版社が攻略本、そしてゲーム雑誌事業に参入し、大量のゲームライターが活躍していきます。仕事量は膨大、収入も良い、文章力はあまり問われない。とにかくひたすら働く。1980年代後半から2000年代前半というのは、そういう時代でした。

ただ、何でもそうなんですが、いま儲かるからといって、その環境に自分を最適化させすぎてしまうと、その環境がなくなったときに、にっちもさっちもいかなくなります。Webの普及で攻略本ビジネスがなりたたなくなった結果(ついでに紙の雑誌が急激に減少した結果)、一番最初にわりをくったのが攻略ライターです。他に仕事がなかったからです。Webメディアに移行できたライターにとっても同様です。今や個々の記事がSNSで拡散され、記事ごとにPVで評価される時代になったので、媒体力が急速に弱まっています。そのためライター個人のブランド力(ひらたくいえば記名記事の蓄積)が良くも悪くも重要になっています。それには読者層の固定されるゲームメディアだけでなく、不特定多数の読者に目がとまりやすい一般メディアで執筆できた方が有利です。そのためには一定以上の記事制作スキルが欠かせません。文章力だけでなく、企画力や専門分野といった、ライターとしての総合的なスキルです。そのためには普段から自己研鑽が必要というわけです。

ただしインターネットの普及で誰もがメディアになれるようになった今、一般メディアの二極化が急速に進んでいます。その中でさまざまな媒体が増殖し、淘汰されています。その中でいかにライター自身が自分自身の生存戦略を立てて、商品価値を高めていけるかが、より重要になっています。ライター自身がオウンドメディアになっているのです。ためしに自分のエゴサーチをしてみてください。今なら最低でも、自分のブログやSNSのアカウントなどが、検索エンジンのトップに上がるようにすることが大切です。もっとも検索エンジン自体も(そして検索エンジンを中核においたメディアのエコシステムも)どんどん変わっていくことが予測されます。そうした環境の変化にどんどんキャッチアップできるようにしていくことが重要です。

実際、ゲームライターにとってゲームメディアはホームグラウンドです。一番書きやすいのは事実です。だからこそ、そうした安定した環境に安住するのではなく、どんどん違うフィールドに出て、時にはテキストを書く以外の仕事もして(動画とか、講演とか、それこそコミュニティの運営とか)、さまざまな経験を積み、商品価値を高めていくことが重要です。短期的には儲からなくても、それが将来に向けてのリスクヘッジになります。いわば本業以外のことをするのは、ライターにとって保険であり先行投資です。まあ、当日はそんな話にまでつながればいいかなと思っています。ぜひどうぞ!


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