まだ歴史が浅いことから常に何かしらの変化をしているウェブメディアですが、
ここ最近は特にその動きが速く、昨年末のWELQに端を発するキュレーションメディアの問題や、はちま起稿の問題、最近はR25の閉鎖のニュース、更には有名なゲーム情報メディアの運営撤退(個人に引き継いで運営自体は継続されるとか)など、
メディア界隈はなんだかワサワサとざわついています。
私、加藤はメディア運営側の立場ですが、ゲーム系のメディア関係者と話していると「もう従来型のマネタイズ(収益化)では無理」というのが毎度出てくる共通の話題で、各メディアは生き残りをかけて新たな事業軸を模索しつつあります。ウェブメディア全般がそうなのですが、特にゲームメディアはその動きが激しいように思われます。
そもそもゲームメディアの「従来型のマネタイズ手法」とはどういったものでしょうか。
ゲームメディアに関しては、2013年、2014年ごろ、スマホのソーシャルゲームが右肩上がりで売り上げを伸ばし、スマホの普及率も急激に上昇していることを背景に、
ゲーム情報メディアはこぞってスマホソーシャルゲームの情報発信に手を出しました。
発信する情報の中でも「攻略」はゲームを遊ぶそのスマホで検索をされ閲覧されるため、ウェブメディアとしてはPVを稼ぎやすく、また記事作成費用もコラムや取材記事に比べれば安いことから、さらにはスマホ以外のゲーム市場が全く振るわなかったこともあり、救世主のごとくゲームメディアのメインコンテンツに成り上がりました。
直接的には攻略を行わないメディアも、ソーシャルゲームのイベント情報などのニュースを発信することで活況な市場の恩恵を受け、
SEOをそれなりにやって素早く大量の記事を入れさえすれば
ネットワーク広告で十分に収益が出る、プラス記事出稿(広告としての記事)もある
というビジネスモデルが成り立ちました。
もちろんそこには競争がありましたので、特定のボリュームを持つ検索ワードで10位以内に入れないメディアは淘汰されていったのですが、そもそもその検索ワードが多種多様にあり土台になるPV数が甚大であったため、個人が運営する小さなメディアでもがんばれば何とかなる、というような状況がありました。
「ガチャ」による爆発的な売り上げから潤沢な資金を持つゲームデベロッパーは、目が眩むほどの巨額の資金を広告費に使い、結果的にメディアはそれによって潤いました。
攻略特化で六本木ヒルズにオフィスを移すゲームメディアが現れ、または攻略から動画に派生し上場するメディアも登場しました。
ネットワーク広告で収益化しクライアントを持たずに我が道を行く
直接出稿をとり粗利率の高い運営をしていく
など、方針はいくつかに分かれましたが、基本的にはゲーム業界の救世主、スマホのソーシャルゲームの急速な伸びにメディアもまた支えられ、攻略や速報用に編集部を構成し、そこから得る利益でコラムや取材などの記事をプロのゲームライターさんに発注する(できる)、という構造が成立していました。
しかし徐々に、そして次第に速度を上げて状況が変わっていきます。
従来より日本式の「ガチャ」に頼るゲーム市場の収益構造は折あるごとに問題視されていました。
射幸性の高さや、クジとしての仕組みの不透明さ、本来のゲーム性への影響など様々な要素がありましたが、2016年1月にあるソーシャルゲームのガチャが社会問題化し、「ガチャ」に対して法的規制が入るかもしれない、という話がネット上を席巻しました。
数年前にガラケーの「コンプガチャ問題」を経験していたゲーム業界にとっては、「あの痛みがもう一度やってくる」という恐怖でもありました。
ガチャに頼る収益構造だけではダメだ。ゲーム市場の構造は変わらざるを得ない。あるいは市場は縮小していくのか。
現実問題として規制が入る可能性があるものに大きな開発費を費やすだろうか。
今まで潤沢だった広告費が激減しメディアの収益源は奪われるのではないか。
このような空気がゲームメディア界隈に流れ、一部のメディアは違うところに新たな価値を作ろうとしました。
VR、コンシューマ、海外への取材、等々。これらはつまり、日本の現状でのゲーム市場=スマホのソーシャルゲームに依存するのではなく、新たな価値を呼び込もうとする動きでもありました。
一方で、収益源としては従来型の「攻略」や「ニュース」は依然重要でした。これは今も尚一定の価値を保っていますが、しかし、その部分の収益を保とうとするメディアは、ここ最近新たに出てくる生きの良いゲームタイトルがあまり無い、という事に気が付きました。
期待の大作もストアランキング20位の壁の中に居続けるのは難しく、一時的な話題の後に小さくまとまる、という事が繰り返されました。
ここ2年ほどは広告ネットワーク界隈の頑張りもあり、個人のインディーゲームデベロッパーが使いやすい様々な広告フォーマットが開発され普及し、小さな光るタイトルが出て来るようにはなりました。しかし、メディアが記事として取り上げて十分に収益化できるほどのユーザーボリュームを持つものはほとんど無く、メディアは新たなタイトルを応援し育てたいという希望を持ったまま、従前の巨大タイトルから得られえるPVがなるべく下落しないようにするという戦いをせざるを得ませんでした。
つまりそれだけゲームメディアは、一部の超ビッグタイトルを見て攻略し或いはニュースを発信し、それにより潤沢な広告予算の一部を享受してきていたという事でした。
これが「従来型のマネタイズ手法」でした。
しかし従来型のマネタイズ手法ではもはや十分な収益を上げることは難しくなりました。それはウェブ面のネットワーク広告の収益性の低下や、記事出稿の減少、人気タイトルの老朽化などが直接的には原因ですが、
ともあれ、少なくとも完全に勝ち切って頭一つ抜け出したメディア以外は、何らかの形で別の収益構造を持つ必要に迫られました。
さて、ここが現状です。
これを踏まえてゲームメディアはゲームライターさんにどのようなスキルを求めているのでしょうか。
この質問の答えは今現在各メディアが色々と考えている最中ですので正解はまだ分からないのですが、加藤の今のところの考えを少しだけ書きたいと思います。
1つは、取材力。
ウェブ上で集められる、或いはゲームの中から取り出せる情報だけでは、メディアとして価値を持つことが難しくなってきました。
その作業は量産型やスピード勝負になりやすく、最近ではSEO的なリスクも持つようになりました。
それと対比して、独自の取材ができる、インタビュー記事が書ける、という能力の重要性は増してくると考えています。(増してくるというか本来の状態に戻る)
加藤のサイトでもコラムや取材記事などを徐々に増やし、ゲーム業界の取り組みを、日本に限らず世界中幅広く、ゲームファンに届けていくような記事を徐々に増やしていますが、
安心をして依頼ができるゲームライターさんは意外と少なく感じます。
もう1つは企画力。
大型のスマホソーシャルゲームに寄りかかって関連情報を出していくだけではメディアは成り立たなくなってきました。(本質的にそれがメディアか、という問題もありますが)
メディアはユーザーが求めるものを提供しなければなりませんが、既に世に出て価値がはっきりしている題材は多くのメディアが取り上げますから独自の価値にはなりません。
きちんと企画して狙って当てに行くコンテンツが必要で、それこそが差別化になります。
企画の趣旨を理解し、場合によっては企画をメディアに提案し、一緒に押し進めてくれるライターさんは、メディアにとっては大変ありがたい存在です。今後その重要性は高まるでしょう。
最後の1つはタレント性。
顔を出すか出さないかによらず、ライターさんにはそれぞれ「タレント性」というものがあります。
メディアがいうタレント性とは何かというと「ネット上での知名度」のことです。
SNSのフォロワーが多い、人気のブログを運営している、など、ネット上の人気者であることはメディアにとっても記事作成を依頼する大きな理由になります。
これは彼らのタレント性をPVとして還元したいという意図もありますが、力のあるライターさんと組んでコンテンツを生成していくことは、上の2つとも絡めて
単に人気タイトルにぶら下がって情報を発信するのではなくて、メディアオリジナルの価値を生成していく、
という事でもあります。
そういうことをやりながらSEOオンリーの集客から脱却し、例えば一部に有料記事コーナーを作るのか、ECなどと組み合わせるのか、その他何か別の収益ビジネスと組み合わせるのか、というようなことを、今後ゲームメディアもやっていくようになる、のではないかと私は考えています。
では、はてさて、取材力と企画力はともかく、ネット上の人気者になることはそもそもライターの仕事なのでしょうか。
ネット上の力というものは本来はメディア側の仕事ではなかったのでしょうか。
ライターにタレント化まで求めるのは健全なのでしょうか。あるいはこれは時代の流れとして致し方ないのでしょうか。
という辺りを、次回のゲームライターコミュニティ勉強会で討論します。
ゲストにはネット上を騒がせた記事「ライターが”読モ”化している件について」執筆者の宮崎智之氏をお迎えします。
興味のある方はぜひご参加くださいませ。
参加申し込みはこちら
http://peatix.com/event/239048
※イベントは終了しました!たくさんのご参加をありがとうございました!